string(11) "insight-lab"
INSIGHT LAB

競合やユーザーを調べるんじゃなくて、人間を見に行こう

「マーケティング近視眼」という論文があります。
「ハーバードビジネスレビュー」にセオドア・レビットが発表したのは50年以上も前のことですが、今でも学者や研究者がその内容を引用しておりブログにもたびたび紹介されています。
よく引用されているのは米国の鉄道会社の事例です。

彼らは、自社の事業を「鉄道事業」として考えたために衰退の道をたどった。
狭く限定した「鉄道事業」ではなく、人や貨物を運ぶ「輸送事業」であると定義すれば、トラック、バス、飛行機といった他の輸送手段を用いる企業に顧客を奪われることもなかった。
自らの製品からの視点に止まり、広く見ることができない「近視眼」に陥ったために衰退の道をたどった、とレビットは指摘しています。

この論文は経営に関する考察ですが、「近視眼に陥ってはならない」という指摘は現在の私たちも目をむけるべき重要な警告です。

マーケティングやコミュニケーションのアイデアを考える際に手がかりにするインサイト。
それが、このような近視眼的インサイトに陥っているケースがあまりに多い。
日本の多くの企業がいまいち突き抜けきれず停滞しているのは、それが大きな要因です。
アイデアや企画のスタートを、自社ブランドやそのユーザー、あるいは競合ブランドやそのユーザーのインサイトに置く。

一見当たり前のように見えるこの考え方に、落とし穴があります。
この発想が、コミュニケーションやプロモーションにおいても、競合との小さな差を追求するだけでターゲットに届かない結果に陥る要因になっています。
そのようなインサイトは、結局は「自社」「競合」「ユーザー」といった狭い世界の中での見方に過ぎない。
そこから得られるのは細かい改善点や訴求要素だけです。

そして、そんなインサイトから生まれるアイデアには、人々を動かすような突き抜けたインパクトがありません。
仮に目に触れたとしても、残念ながらスルーされておしまいです。

では、どうすればいいのでしょうか?
「人間を見に行く」というのがその答えです。「商品」「競合」「ユーザー」「市場」といった視点から一旦離れるのです。

かの本田宗一郎は、かつてこのように言ったと伝えられています。
「研究所は人間の気持ちを研究するところであって、技術を研究するところではない。研究所の技術者が第一にすべきことは、お客様の心を研究し、お客様に喜んでもらう将来価値を見つけること。それが分かったら、手段である技術を使って、その将来価値を実現すればよい」
「心を研究する」はインサイトと言い換えてもよいでしょう。

人間がいま求めていることが何なのかを知る。それこそがまず必要と説いたのです。
求めていることがわかれば、そこで初めて自社の技術の出番となり、その求められていること=将来価値を、技術で実現する道を探ればよいということです。

そうすれば近視眼に陥ることも未然に防がれることになります。

まず「人間を見に行く」ことから始める。
人々が求めていることが何なのか、を知る。
ターゲットが設定されているのであれば、その人々が求めているが充たされていない欲求や感じている不満を明らかにする。
大きな「ユニバース」の中で、人間が求めていることを探り出す。
本田が言うものづくりでなくても考え方は同じです。

コミュニケーションの企画であれば、企画する対象のテーマと「人間が求めていること」の接点を探してアイデアを産み出すのです。
優れた広告やキャンペーンを改めて見てみると、そのアイデアには「人間」の欲求や不満がしっかり反映されていることがわかります。
そして表現する対象とその欲求や不満の接点が上手に活かされている。
天才と呼ばれるクリエイターやプランナーは、「人間を見に行く」ことを頭の中で自然に行っており、つまらない近視眼に陥ることを上手に避けているのです。
競合との小さな差異に着目してどんな戦略を駆使してもメッセージを投げかけても、ほとんどのニーズが充たされている成熟した今の社会では「だいたい、良いんじゃないですか?」とスルーされてしまうのがオチです。

そんな人々を相手にするには、近視眼発想を脱して、「人間を見に行く」ことで初めて、彼らを動かすことができます。

自社や競合ばかりを見る近視眼に陥らず、広く人間を見に行って力のあるインサイトを発見する。
それこそが、今の日本に広がるイマイチな現状を打開する近道なのです。

なお、当記事は、宣伝会議社のアドバタイムズにも掲載されています。

競合やユーザーばかりを見るのではなく、「人間」を見に行こう

デコムインサイトスクール
最新のマーケティング
課題における
インサイト活用セミナー
毎週開催!!

詳しくはこちら