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デコムの最新刊
『「欲しい」の本質~人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方~』
でも、
・人間の欲望は天使と悪魔の両面で捉える
・エンジェルなインサイトには要注意、一度デビルを疑ってみる
と、いま世に蔓延る“きれいごとベース”のマーケティング思考に対して
警鐘を鳴らしています。

以前、近視眼に陥らず「人間を見に行く」ことが大切であると述べました。その人間を見に行くという時に、誤りを犯しがちなポイントがあります。

「七つの大罪」というキリスト教の教えがあります。「暴食」「色欲」「強欲」「憤怒」「怠惰」「傲慢」「嫉妬」という7つの欲望を指し、人間を罪に導く可能性があるとして戒められているものです。

最近のさまざまな事件にも、このような欲望がその引き金になっているものが数多くあることに気づきます。そして、今これを読んでいるあなたの心の中にも、そのような悪しき欲望が存在している。それが現実です。

キリスト教だけではありません。
仏教では「煩悩」という言葉で同じように人間を戒める教えがあります。煩悩は除夜の鐘を叩く回数である108あるというのが通説ですが、その根本は「三毒」と称される「貪」(とん=むさぼり求める心)、「瞋」(じん=怒り)、「癡」(ち=無知)という三つの煩悩です。この三毒が克服すべき人間の諸悪・苦しみの根源だというのです。

このように古今東西を問わず伝えられている通り、人間は「悪しき心」から逃れられません。「悪」が人を惹きつける力はそれほどに強い。「悪魔の囁き」という言葉がある通り、まさに魔力と言うべき強さがある。人間はその恐ろしさを知るが故に、善の心を強調し、道を外さないように守ろうという知恵を育んできました。人間はそれほど弱く、愚かな存在なのです。

このような人の心に棲む悪しき欲望が「デビルインサイト」です。

「人を支配したい」「自分を甘やかしたい」「人を出し抜きたい」「羽目を外して暴走したい」「現実逃避したい」「タブーを犯したい」…そのまま公の場で口にするのはちょっとはばかれる欲求を満たしたい。そのような醜さを持っているのが、人間の本来の姿なのです。

しかしながら、人間を見に行く時にこのようなデビルの心は忘れられてしまいがちです。ビジネスの現場では、人間には「善き心」=エンジェルインサイトしか持っていないものであるかのように、デビルの一面は全く表現されない、という事態に陥ってしまっています。

デビルとエンジェルの両面を人間が持っていることは一個人としては理解できても、結果的にはエンジェルな心ばかりを読み取っている。これでは、人間を半分しか見ておらず、不完全な解釈しかできていない状態であるということになってしまいます。そのように読み取られたのは所詮「きれいごと」に過ぎないのです。

そうしたきれいごとのインサイトに基づいて作られたアイデアは、見事なまでに引っかかりがなく、スルーされてしまいます。いくら目に触れたとしても、人間の本質をつかまえていないので、心を動かすことができません。反感は持たれないかもしれませんが、強い共感も得られない。なんとなく良いと思われるけれど心には残らず通り過ぎてしまう。これでは単なるお金の無駄遣いです。

広告クリエイティブをそのような目で見ると、巧みにデビルの心理を突いた成功例が数多くあることがわかります。

近年では妻夫木聡さんの出演した「ロト6」のシリーズがその好例でしょう。あるいは、「やっちゃえ、日産」という言葉の表現もそのような心の琴線に触れます。歴代の名作を振り返っても、デビルインサイトに訴えるアプローチが見つかります。

そうしてデビルな心理を刺激しつつ、見終わった時には「そうだよね?」と共感してもらったり、「いやいや」とほろ苦い気持ちにさせたりする、それがアイデアというものでしょう。

人が目を背けたい一面に光を当てても、単に嫌な気持ちにさせるだけなら、世間の反感を買い炎上するだけです。そうさせずに人を喜ばせるのが、作り手の腕の見せ所です。

デビルな心はもともと軽々しく話せないものです。それを口にするのは、あたかも自分自身の悪の心を人に見られるようで気が引けるということもあるでしょう。だから、エンジェルなインサイトばかりに目を向けていれば、会議の席でもプレゼンテーションでもその場に波風が立つことはなく、仕事は無難に進むかもしれません。しかし、最終的にアウトプットされた時に何も成果がないのでは意味がありません。

インサイトを洞察する時、常にデビルの側面を意識すること。このような思考スタイルを持つことで、得られるアイデアは広がり、クォリティも格段に高まります。「悪魔の力」を上手に活用すれば、もう一歩先の世界が開けるのです。

なお、当記事は、宣伝会議社のアドバタイムズにも掲載されています。

きれいごとでなく、人間の「デビルな一面」に目を向けよう