2019年に大ヒットした映画の1つが「ジョーカー」です。もちろん日本だけでなく、世界中で大ヒットを記録し、バットマンシリーズに新たな歴史の1ページを加えたと考えます。
なぜ、「ジョーカー」はここまで多くの消費者の共感を呼んだのでしょうか。アメコミ映画らしくない、地味で、暗く、派手なドンパチシーンも無いけど、ジワジワと圧倒的共感が世の中に広まったのは様々な理由があるはずです。
どのような価値が隠されているのでしょうか。私たち株式会社デコムのIATチーム(Insight Analytics Team)が調べてみました。
「ジョーカー」が共感される理由
私たち株式会社デコムの運営しているサービス「Trend banK」に、ジョーカーの人気の理由に迫れそうな事象を幾つか発見しました。
この事象から「憂いの世界への没入」という価値が浮かびます。あえてそういう世界観に飛び込み、完全に浸ることで、一気に心の中の陰鬱な気分を洗い流すという手法を取っているようです。
辛い時にあえて明るく振舞う人もいるでしょうが、辛いならとことん辛くなって、そこから回復する…そういう抜け出した方もあるかもしれません。
この事象から「”あえて”の知的好奇心」という価値が浮かびます。要は気楽に観られるものだけではつまらないから、たまには「硬派」で「真面目」なものを見たい、と考える経験は皆さんにもないでしょうか?
思い出されるのは、2018年に公開された「万引き家族」です。カンヌ受賞はもちろん、アメリカでも批評家から高い評価を受けました。映画を通して、普段は見過ごされている社会的弱者の視線が描かれました。
「万引き家族」は社会的課題を抉りながらも、まさに事象にあげたような「考えさせられる」「憂いの世界への没入」という特徴を持った映画でした。見終えた後は、なんとも表現しがたい感情を抱いたでしょう。
しかし、それこそ「スカッとした」で済まされるアメコミ大作映画には無い、重要な価値だと考えます。
「ジョーカー」が受け入れられた理由とは?
ジョーカーが受け入れられた要因の1つに、誰しもが持ちうるような社会への不満の描写が挙げられます。「世界が狂っているのか、自分が狂っているのか」というセリフは、まさに自分と社会に線を引く者への不満そのものです。
また、「心優しい人間」が「悪のカリスマ」に変わるまで延々と続く、社会から虐げられる描写のわかりやすさが特徴的です。
だからこそ「身近っぽいけど、自分はギリ「あっち側」ではない」という安心感も得られるのではないでしょうか。このような感覚は、ぶっ飛んだ世界観で絶対的な正義のヒーローが強い力をもつ悪を倒す非日常の爽快感を得られるアメコミ映画には無いでしょう。
そう考えると、ジョーカーが多くの消費者の共感を呼んだのは、身近な世界観で正義と悪の境目について考えられる知的満足感を得られたからだと考えます。
か細い1本の線を危なげに歩く主人公が、ちょっとしたいたずら、偶然から倒れてしまう、その一挙手一投足に「考えさせられる」のが今の世界だと言えるでしょう。