東京では緊急事態宣言が解除され、徐々に元の姿を取り戻しつつある街中では、「これから世界はどうなっていくんだろう??」といった不確定で曖昧な将来への不安の声が聞こえてきそうです。そんな予測不可能な時代を生きる消費者の変化し続ける欲求を捉えること、すなわち消費者の「インサイト」を捉えることは、マーケティング戦略を成功させるうえでますます重要になってくることでしょう。
ありがたいことに、弊社代表の大松の著書『「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方 (宣伝会議)』や弊社主催のセミナーなどに参加いただいた企業の皆様より、弊社の考え方をベースにインサイトを見出している企業様の記事などをお見掛けするようになってきました。
消費者の隠れたニーズを掘り起こす。ソーシャルリスニングのやり方「インサイト調査」を解説
一方で、インサイトの基本はわかったが、実際に消費者インサイトを記述してみるとイマイチわからない部分がある、という声もいただいております。
今回は改めまして、弊社の考える「インサイト」とは何か、基本に立ち返り、ここだけおさえればどんな方にもインサイトを正しく捉えていただける、ビギナー向け入門編かつインサイトマーケティングの本質としても理解いただけることをお伝えできればと思います。
申し遅れましたが、こちらの記事を執筆しているのは、2016年よりデコムで主にインサイト分析官を務めています、大堀 晃生(おおほり あきお)でございます。よろしくお願いいたします。私生活ではTaiko Super Kicks(タイコ・スーパー・キックス)というバンドでベースを担当していたり、最近は短歌を詠むことにもハマっています。様々な分野のクライアント様のマーケティングをお手伝いするなかで培ってきたインサイトの考え方の基本をお伝えさせていただきます。
まずはこれだけ暗記しましょう 正しい「インサイトの定義」
さて、あなたは「インサイトってそもそもなんなんですか?」と聞かれたとき、簡潔に説明することができますか?
よくある間違いが、「消費者ニーズ」との混同です。フォーカスグループインタビューなどを通じて得られる、消費者が意識できていて、消費者自身が説明できるものは、「顕在化した『ニーズ』」であり、弊社ではインサイトとは明確に区別しております。インサイトとは消費者の意識下(無意識)に潜在していて、声に出して説明できないような、曖昧で微妙な欲求などを指します。ひとことで言うと、『顧客を動かす隠れた心理』です。
11文字です。これを機に覚えてしまいましょう。大事なことが詰まっている定義ですね。マーケティングにおいてなぜインサイトが大切なのかというと、下記の2点があげられます。
- 情報化社会で差別化され尽くした膨大な商品・サービスが溢れる中で、消費者が自分自身の欲しいものが何かがわからなくなっている
- 消費者自身ですら説明できない欲求を捉えないと、商品・サービスの差別化を産むイノベーションやほんとうに必要とされているアイデアが生まれずマーケティングは失敗に終わる
インサイトを正しく捉えることではじめて、「隠れた心理」を明らかにし「顧客を動かす」ことができるマーケティング戦略がたてられるのです。繰り返しますが、消費者が言葉にできる、明らかなニーズを聴取するだけでは顧客は動いてはくれない時代です。
はじめてでもこれだけおさえれば大丈夫!インサイトの作り方
インサイトというものの姿がクリアになってきたところで、もう1段階解像度をあげてインサイトの作り方、インサイトの構成要素をみていきましょう。こちらもかなり大切です。弊社では下記にあげる要素のどれか一つでも欠けているものはインサイトとは呼びません。
【インサイト4要素】
インサイトの4要素、これもとっても大事な要素です。これも覚えてしまいましょう。
- シーン
- 源泉要因
- 情緒
- 背景要因
この4つです。英語でもいいですね、シーン・ドライバー・エモーション・バックグラウンド。これらはインサイトを分析するうえでも非常に役に立つ考え方ですので、自然にこの型で整理ができるくらいまで繰り返しトライして覚えてみてください。
4要素でインサイトを考えることで、最も大事な部分である、「インサイトの客観性」を担保することができます。一般的にインサイト=対象者の主観的な感情や気分を言葉で表現したものと思われがちですが、ここに罠が潜んでいるわけです。情緒はその人にしか感じられない感情や気分であるので、もちろん主観的なものです。
ただ、それだけでは顧客を動かすことはできません。主観的な感情や気分だけのインサイトは、例えば商品を売り込まれるときに、「スッキリとした高揚感が得られます」とだけ言われ怪しさしか感じないようなものです。4要素の内、情緒以外の3要素には必ず客観的な事実(ファクト)をいれる、というのが超重要なグラウンドルールです。主観的な情緒(エモーション)だけわかってもアイデアは何も産まれません。「スッキリする高揚感」だけでアイデアが作れる時代はとっくに終わっています。
意外と難しい 客観的なインサイト表現のコツ
それでは実際のインサイトの表現方法についてみていきましょう。わかりやすいところから順番に説明していきます。
【情緒】
情緒ですね。エモーションを豊かに表現ください。ここは顧客の気持ちになりきって、どんな欲求があるのか、どんな不満があるのかなど、主観的に表現ください。情緒の部分が価値で表されると「価値インサイト」、不満が表されると「不満インサイト」となる具合です。どんな気持ちの状態になりたいのかを表現すればいいので、インサイトと言われて想像しやすいところかと思います。エモーショナル・ゴールなどとも言われますね。できるだけその人の気分がわかるように、例えばインタビューをした場合はその人自身が使っていた感情や気分の表現を参考にするのも良いでしょう。
【シーン】
情緒が生まれた場面です。どんな状況・状態においてその情緒が生まれているのかを表現ください。ここには具体的な場所や時間、行為をする人数や関係性など、そのインサイトが生まれる周辺の状況を描いてみてください。状況をスケッチをするように、写真を撮るように、小説を書くように、具体的なシーンを切り取るイメージで表現してみてください。シーンが具体的に客観的であることで、対象者のインサイトが生まれる行動や体験がありありと浮かび上がり、解像度が増してきます。
【源泉要因】
情緒を生み出すもととなった、直接的な要因です。こちらも客観的かつ具体的なファクト情報を必ず盛り込むことが必須です。このドライバーの部分に主観的な情緒をいれてしまう間違いをしてしまいがちなので、要注意です。
例えば「かわいいパッケージデザイン」というのは源泉要因でしょうか、情緒でしょうか。「かわいいパッケージデザインで高揚感が得られる」という源泉要因と情緒の組み合わせは、間違いです。「かわいい」は具体的で客観的な情報として認められないため情緒にあたります。例えば、より具体的に「黒地に水玉模様のパッケージデザイン」のように、誰もがある程度以上同じものを思い浮かべることができる状態まで表現されたものが源泉要因となります。
インサイトを捉えるときに、情緒ばかりで終わってしまうと、そこから生まれるアイデアは抽象度が高く、ふわっとした実行不可能なものになってしまいます。先ほどのように、「かわいくて高揚感が感じられるパッケージ」と言われてもデザイナーさんが困り果ててしまうような「なんとなくインサイト」を見出しても、骨が折れるだけ誰も幸せにはなれません。源泉要因のファクト情報には顧客の行動や体験の「因数分解をしていくイメージ」で、何がその感情を産んでいるのか?、何が作用しているのか?を客観的に分析し表現してみてください。
【背景要因】
軽視されやすいのが、背景要因、バックグラウンドの情報です。しかし、この背景要因は実は、「そのインサイトがどの程度社会にインパクトを与えるか」、という指標になる重要な要素なのです。その情緒が価値(あるいは不満や未充足)である背景的な理由を客観的に表現ください。あるシーンでの、顧客の行動や体験における源泉要因から得られる情緒、これらは顧客にとって価値であるか、不満や未充足につながるかはすべてこの背景要因によって決まります。
例えば、「お金を渡す」という行為一つとってみても、その背景要因、コンテクストが変わるだけで全く意味が変わってきます。例えばそれが、”世帯収入の平均額が著しく低い地区のゲームセンターでカツアゲをされている学生”だったら、あるいは”保護犬の殺処分の増加を憂う犬好きの老人が駅前で保護犬の募金活動に寄付をする”場面だったら。コンテクストが変わるだけで、同じ行動の意味合いがガラリと変わることがわかります。(太文字部分が背景要因に当たります。)
社会的な状況や問題、あるいはライフスタイルの違いや世代ごとの価値観の違い、職業ごとの生活様態など、「広く大きな包括的な視点からの具体情報」を表現してみてください。その際に「どのような社会の中で、どのような生活をしているから、この情緒が現れている」ということがストーリーとして明確に繋がることを意識してください。
ここで間違えやすいのが、背景要因に「シーン」を描いてしまうことです。シーンはそのインサイトが現れる行為や体験が起こっているそのまさに場面、瞬間を切り取るイメージです。背景要因はその行為や体験の裏に広がる一段上のレイヤーの概念、としてイメージしてみてください。たとえば「保護犬の募金活動にお金を寄付する」という行為においては、「買い物のお釣りで小銭が余っていた時」、などはシーンに当たり、背景要因とするには少々レイヤーの低いものになります。ここはもっと大きく、生活全体の中で対象者が気にしているであろう「ペットの殺処分問題」などを拾い上げてくることが重要です。
「お茶漬けのもとはカサカサしていて孤独を感じてしまう」というインサイトの背景要因として「社会全体の個食化」という社会的なイシューが見えるかどうかで不満インサイトが解消され、価値インサイトが達成された際の社会的なインパクトに明らかな違いが出てきます。また一般的に言われる「インサイトは定性調査のn=1の規模の話で、説得力がない」という意見に対して、この背景要因を広く大きな視点で表現することは個別のインサイトを一般化、あるいは普遍化することに役立ち説得力を高めるのに有効です。ぜひ、社会にインパクトを与えるインサイトの定義にチャレンジしてみてください。
また、背景要因を表現するときは、主に「ネガティブな状況」を表すとストーリーがたてやすくおすすめです。なぜなら価値インサイトであれ、不満インサイトであれ、インサイトとは何かしらの問題や気がかりを回避し、逃れ、退けるために求められるものだからです。充たされている、十分な状況ではインサイトは生まれません。そのままで大丈夫だからです!(これすごくシンプルですが、意外に重要です。)
~少々脱線コラム~
そもそもインサイトって何のために分析するのでしょうか。私は「インサイト」というものの「マーケティングにおける存在意義」を常に考えています。現時点での私の考えは以下の通りです。
マーケティングにより、本当に必要とされる製品・サービスを世界の中にひとつでも多く産むことで、ひとつでも多くの不満や欲求を叶えていく。それによって世界が少しずつよりよい世界になっていき、すこしずつ幸せな人が増えていく。そこで生まれる利益をマーケティングの結果としていただく。そのためには大きな社会的な問題や生活の中での価値観の変化を捉えた大きな視点をもったインサイトを見つけることが重要になる。小さな流行やトレンドだけを追うだけの、ただ新商品やサービスを作り続けるいたちごっこのマーケティングでは世界は良くならない。
こういった考えからも背景要因を、①広いレイヤー、大きな視点で描くこと ②ネガティブな状況を描くこと、この二点は肝要となることがわかります。
さて今回はマーケティング活動の中でインサイトを考えるうえで、これだけはおさえてほしいとインサイト分析官が思うところをご紹介しました。インサイト4要素を紹介する資料やその他インサイトから派生する様々な理念やメニューのご紹介などの資料は、最下部よりダウンロードいただけます。
また今回の記事のようなインサイトに関わる情報や弊社で主催するセミナー情報など皆様の普段のお仕事に役立つ情報をお届けするメールニュースもございますので、是非、ご登録いただければ幸いです。
メールニュース
デコムの新サービスやセミナーに関わる情報、最新事例の紹介などいち早くお届けします。
読むだけでは理解できない部分も、実際のインサイトの分析を通じて理解が進む部分が多くあるかと思われます。是非今回の内容を用いて皆様のビジネスの中でも本当に意味のあるインサイトの発見にトライしてみてください! 最後までお読みいただきありがとうございました。