創業1804年、創業から220年を迎えた株式会社Mizkan様。江戸時代から続く食酢醸造の伝統を守りつつ、ぽん酢やつゆや調味酢、納豆に加えて、最近では黄えんどう豆100%のZENBヌードル*など新しい商品を生み出し、日本を代表する総合食品メーカーとして発展しています。
*ZENBヌードルは、オンラインを中心に販売を拡げる「ZENB」が開発・製造・販売。
そのような背景の中、今回インサイト特化型の組織開発支援であるデコムの「インサイトスクール」を実施いただきました。Mizkan様が導入した背景、その後の変化や展望について開発技術部の鶴水様、町川様、滝口様にお話しを伺いました。
食酢醸造を大切にしながら、総合食品メーカーとして事業を多角化、グローバルへも積極展開を行っているMizkanに息づく「挑戦する風土」
マーケティング本部 開発技術1部 開発技術3課 課長 兼 味確認室 担当マネージャー 鶴水様
ーーーーMizkan様について教えて下さい。
鶴水:Mizkanは創業1804年で、創業から220年を迎えました。お酢から創業したメーカーですが現在では事業の多角化が進み、食酢飲料や調味酢、めんつゆや鍋つゆ、ぽん酢など飲料や調味料の他、納豆の製造販売しています。また、海外事業も40年以上前から積極的に進出をしています。北米を中心に欧州、アジアにおいても事業展開を進めており、現在グループの海外売上の割合は約6割というところで意外にグローバルな会社です。
ーーーーZENBヌードルなど直近でも新しい事業を進められていますね。
鶴水:「ZENB事業」は、Mizkanの象徴的な取り組みとして人や環境への負荷が少なく、「おいしさ」と「カラダにいい」をともに叶える、ウェルビーイングなあたらしい食生活を実現したいという想いから、2019年にD2Cブランドとして立ち上げました。現在はヌードルやブレッド、パスタソース、カレー、チップスなど、生活の様々なシーンに寄り添えるよう素材本来のおいしさと栄養を活かして様々な商品をご提案しています。
ーーーー食への好奇心をくすぐるような商品がすごく多い印象ですが、これはMizkan様のカルチャーとして根付いているものなのでしょうか。
鶴水:Mizkanのミュージアムにも展示がありますが、ビールが日本で流行り始めた明治時代にビール醸造事業に参入するなど、新しいチャレンジをしていく風土は今も企業として引き継がれていると思います。最近はZENB事業の他にも、発酵性食物繊維に着目した新ブランド「Fibee」など、調味料事業に限らず、新しいチャレンジに取り組んでいます。
ーーーーマーケティング本部開発技術部について、皆様の業務領域について教えてください。
鶴水:私は主に家庭用、業務用の鍋つゆカテゴリーの商品設計の開発を担当しています。〆まで美味しい鍋つゆシリーズのごま豆乳鍋つゆや、寄せ鍋つゆ、キムチ鍋つゆなど、いわゆる味付け鍋の商品などになります。ご家族はもちろんですが、少人数世帯や様々な食シーンにも柔軟に対応できるように1人前からの小容量のミニパックの鍋つゆや、手軽に調理ができる豆腐スープや混ぜ麺の素なども手掛けています。
滝口:鶴水と同じ部署で〆鍋シリーズの新商品の開発や既存商品の改良などを行なっています。Mizkanでは『味作り』と呼んでいますが、小スケールの試作検討から工場の実機レベルでの味の再現まで一貫して担当し、設計した品質がお客様のもとに届けられるように日々取り組んでいます。
町川:私はマーケティング本部の開発技術4課、納豆チームの商品開発を担当しています。納豆の豆、味を支えるタレ、容器のそれぞれを管轄しています。
マーケティング本部 開発技術2部 開発技術4課 町川様
ーーーー納豆はMizkan様の中でも比較的後発の新事業で挑戦されたと伺いましたが、今まで培われた技術も活かしつつ開発をされていらっしゃるんでしょうか。
町川:はい、仰る通りです。酢酸菌で永く培ってきた技術もあわせ、納豆菌と向き合っています。菌の特徴を活かすようにノウハウを織り込んだ商品もあり、例えば気になる納豆の匂いを抑えた『におわなっとう』はこの1つですね。
ーーーーちなみに私は『たまご醤油たれ』の大ファンで、週に一度は必ず買ってストックしています。画期的な商品でまさに消費者起点で開発された商品だな、と日々実感しています。
町川:ありがとうございます。『たまご醤油たれ』は、あまりこれまで他の納豆の特徴にはなかった、混ぜた時のふわふわさせた感じとか、卵と醤油だけとはまたちょっと違うけども、ついついご飯が進む味わいなどにかなりこだわりつつ、時代に合った味ってどんなのだろう?とか、どういうふうにするともっと『たまご醤油たれ』の納豆って美味しい、毎日食べてもらえるかな?っていうところを、少しづつ味を変化させながら育てている商品です。
インサイトを捉えた商品を開発するために、考え方やフレームワークをロジカルかつ実践的に学びたかった
ーーーー今回インサイトスクールにご興味頂いた背景・導入の決め手についてお伺いさせて下さい。
鶴水:Mizkanの代表的な商品である『味ぽん』や『たまご醤油たれ』など、長くお客様に愛されるロングセラー商品がなかなか生み出せていないという課題認識がありました。そのような背景の中で、やはり重要なのは生活者の意見やインサイトを捉えた商品を、どのように作っていくかだと感じていました。一方で生活者にとっての価値を捉える難しさも感じていた中で、インサイトの考え方やフレームワークなどロジカルかつ実践的に学びたいなと思い導入しました。
新商品を作る際は、コンセプト作りから、ものづくり、味づくりに至る流れになります。コンセプト作りは、主に商品企画部門の役割ですが、技術部門がインサイトを深く理解していることで、企画部門と共に考えながら技術的な差別化を進め、技術部門からの主体的な提案の幅が広がると考えています。また、容器開発や技術開発といったシーズの起点においても、生活者理解に基づく開発の重要性を感じていました。
新商品提案における進め方や企画出しの方法に難しさを感じていた
ーーーー業務の中では、どのようなお困り事がありましたでしょうか?
鶴水:そうですね。最近は企画部門だけでなく、技術部門からのボトムアップによる新商品提案を積極的に行っております。技術部門のメンバーはこれまでインサイトのノウハウや構造を学ぶ機会や実践的に触れる機会が少なく、書籍やセミナーなどを通じて何となく知識としては知っている部分があってもどう使っていくかに難しさを感じており、メンバーの成長を効果的に支援する機会を作れないかと思っていました。
インサイトを導き出すために社内でインタビューを行うこともあるのですが、困り事の本質や、聴取した情報からインサイトをどのように導くのかについては、インタビュアーによって出てくる情報や引き出し方も違うので、担当の経験や直感に頼る部分が大きかったです。
ーーーー技術部門から新商品のコンセプト提案をされるボトムアップ提案会議について、もう少し詳しく教えてください。
鶴水:新商品のコンセプト提案は、定期的に技術部門のメンバーが企画提案を行う活動です。直近では『カンタン酢トマト』という商品がこのボトムアップ会議から誕生し、売上も好調で、担当者も喜んでいます。ただ、実際に商品の販売まで繋がった事例は少なく、まだ打率を上げられていないため、感度を養うという観点を含めて、継続的にやっていく必要があると感じています。
滝口:普段の商品開発ですと、企画部門からコンセプトが降りてきて、技術部門でも理解しながら形作っていくような進め方なのですが、ボトムアップ提案会議ではスタートのコンセプトから技術部門から起案し、また必要に応じてプロトタイプも作っています。
とはいえ、言ってしまえば、マーケティングやコンセプト提案の経験が少ないメンバーが進めているため、進め方や企画出しの方法に関して、メンバー全員で共通認識がなかったり、理論的な背景や言葉の理解度に違いがあったりして、そういった点ではボトムアップ提案を進める上での難しさを感じていました。
開発技術部門からボトムアップで、Mizkanの次なるヒット商品を生み出す挑戦。
ーーーー「真の顧客理解ができる技術部門」という強いこだわりが感じられるお取組みですね。
鶴水:そうですね。Mizkanの企業理念に『買う身になって まごころこめて よい品を』というのがあります。技術シーズの創出に関してもお客様の価値につながる商品を作る姿勢がとても大事だと考えています。ボトムアップ提案会議から開発に至った商品はまだまだ稀で、アイデア自体は結構出るのですが、実際の提案までたどり着くのも数案に絞り込まれます。
町川:提案会みたいな、持ち寄りのイベント?はわりとあるんです。その会の前にアイデアや企画を自分なりにブラッシュアップを試みるのですが、やっぱりまだドラフト段階と言いますか、すぐボツになることが多いのも現状です。
周りを見てみると、技術側からアイデアが多く出ることは率直に素敵なことだと考えていて、その中でも周りをうまく巻き込んで最終的に提案に至るのは、ちゃんと生活者目線での肉付けができている提案ですね。先述のカンタン酢トマトの取り組みは同じ仲間として素直に感心しました。
具体的には、私の場合「アイデアとしては面白そうだけど、ではどのような価値があるのか、どのようなシーンや体験を伴うのか」と問い返されて詰まることが多く、インサイトまでをうまく説明できなかったんです。けれど、インサイトスクールを経て、うまく段階を踏みながら企画立案・説明までやれそうだなと感じました。
インサイトの構造化やフレームを活用することで、アイデア出しがスムーズになり、他の人にも説明しやすくなった
ーーーーインサイトスクールを受講してみてのご感想や印象に残った学びなど教えて下さい。
滝口:私は以前よりデコムさんの書籍を読んでいましたが、今回のインサイトスクールの講義や演習を通じて、より自分の考えを整理するときに、インサイトの4要素であるフォーマットを使っていけるようになったなと実感しています。
マーケティング本部 開発技術1部 開発技術3課 滝口様
滝口:実際に、ボトムアップ提案の際にもデコムさんのフォーマットを活用してアイデア出しをしましたが、他のチームメンバーに説明する時や考える時に、以前よりスムーズにできるようになったと実感しており、受講してよかったです。
n=1分析に使うデコム独自の4要素のフレームワーク。シーン(状況・場面)、ドライバー(源泉要因)、エモーション(情緒)、バックグラウンド(背景要因)の4要素を抽出して体験価値を構造化する。
ーーーー早速業務で活用していただけることが何よりも嬉しいです!インサイトの4要素、エモーションだけでなく、シーンやドライバー、バックグラウンドなども紐づけて考える方法は、既存ブランドのアイデア開発にも役立ちましたか?
滝口:そうですね。基本、メインではボトムアップ提案時、自分たちから新商品を発想する時に活用していたのですけれども、インサイトを要素ごとに分けて考えることで、現在販売されている商品の価値を再確認したり、逆に改良すべき点を整理しやすくなったと感じています。結果的に他の方にも伝えやすくなると思いますので、今後も活用していきたいです。
モノの価値をヒト起点で着眼・分解する癖がついた。本質的な価値を見定めてMizkanの新たな提案につなげたい
町川:先ほど、納豆の開発について、豆やたれだけでなく容器も担当しているという話をしましたが、お客様がどのように使うのかを考える際に、モノ起点ではなくヒト起点で価値を見出すという講義内容に、ハッとさせられました。
実際、一緒にみんなで納豆を食べる時にも、ちょっとなんとなく皆さんの手元を見るようになりましたね。ここからヒントがないかな、みたいな。結局、顕在化しているニーズにはあまりヒントがないという話が印象に残り、普段何気なく行っていたり、諦めてしまっている問題にこそ、次の価値提案のヒントがあるのではないかと講義のあと特に感じています。
また、ヒトを起点にして、モノの価値を分解して考えるというという考えは、今まであまり持ったことがなかったんです。売れている商品は、いろいろな要素が積み上げられて複雑に組み合わさったうえで洗練されていると思っていたのですが、いざ、講義でいうデコンコンストラクションですよね。棚卸しして分解してみると、実は本質的な価値が一言で表現できるんだと気づく機会になりました。
生活者の何気ない日常から見えてくるヒントに価値を見出せるか、そこへコミットできる「Mizkanでできること」につなげて、提案していかなきゃいけないんだろうなというのを再認識させてもらえる講義でした。
人を見にいく重要性。感情だけではない行動や生活背景も意識して洞察するようになった
ーーーー受講後、ご自身やチームにはなにか変化がありましたか?
町川:人の動きやちょっとしたことに気づけるようになり、聞くのではなく見ることに意識が向くようになりました。そこは一つ大きな変化かなと思います。またこれまでは、商品の価値を作るときに例えば4Pだとか3Cみたいな考え方をベースに、モノとか会社とか競合のことを今まで意識してフレームワークに落とし込んできていたんですけど、そうではなくて、生活者やn=1に目を向けることも大事だなと意識をするようになりました。ただ、それをまた一般化したときに「ふむふむ」と納得が得られるか、というステップも当然必要だとも講義から学びましたけどね。
滝口:私の中で一番大きな変化は、自分の中でこの商品の価値が何だろうとか、このアイデアの良いところは何だろうとか、そういう価値を考えるときに、研修で学んだフレームワークを使って頭の中で分解しながら考えられるようになったというのは、結構大きな変化かなと思います。それによって自分の考えがスッキリと流れるようになったと感じます。n=1の視点では、商品を買っているシーンだけでなく、その背景にある生活環境やその人の人生まで想像を膨らませ、聞き取りを行うことの大切さを再認識しました。
価値を起点とした社内の会話・新商品提案の考え方や整理に役立った。継続してさらに進化、風土の醸成にも繋げていきたい
ーーーー今回学んだことを今後どういったことに役立てていきたいですか?
鶴水:結構いろんなところで活かせそうだと思っています。例えば普段の商品開発の中での、マーケティング企画部門との会話とかの中でも、どういうふうな人たちにどういった価値を提供するのかという考え方とか生活者の価値を起点とした話ができると思いますし、それこそ技術部門からのボトムアップ提案の考え方の整理や、どういう切り口を作っていけばいいかなど既に実践的に役立っていると思います。
日常生活の中で、売れている商品やサービスを見てその商品の価値を考えるときに、これって結構すごいなとかって気づけるみたいなところだとか、そのような感覚を養っていくところでも勉強になったと感じています。組織としても生活者価値を掘り下げる風土の醸成にも繋がってくると思いますし、継続していくことでさらに進化をさせていきたいと思います。
ーーーー今後の課題について教えて下さい。
滝口:今回の講義を受けたメンバー内では考え方、共通の認識を持っているところもあるので、フォーマットを活用した時にスッキリした議論ができたのですが、受講していないメンバーと議論する時には言葉の使い方や、すっと腑に落ちていないところもあったりします。主体的に学んだことを使っていく頻度を上げて結果も出しつつ、社内でも定着していけば、他の講義を受けられないメンバーとも共通言語で会話がしていけるのではという気持ちでいます。
町川:価値を分解して、それをMizkan目線で考えると強みをどこで生かせるかという、フォーカスするのにも使えるかなと思っています。振り返ると、これまでの提案会のときにはその価値の分解が自分の中で出来ていなかったので、うまく響く提案や説明にできておらず、具体化に繋げられていないんだろうなとも実感しました。デコントレーニングは是非取り組んで、自然にできるようになっていきたいですし、それを通じて、アイデアのブラッシュアップやボトムアップ会議で良い提案に結び付けられるようにと思っています。
ーーーー今後のデコムやインサイトスクールに期待することを教えてください。
町川:無邪気な回答をさせて頂くと、デコム様と繋がりがあるメーカーさんや業界限らずでも良いと思うのですが、会社を跨いだ形の人材交流や、各社が取り組んでいる内容の情報交換や、ワークなどをしてみたいなと思いました。
鶴水:今回のインサイトスクールではインサイト発掘の視点やノウハウなど実践的な内容がたくさんあり、今後の業務に役立つ様々な気づきを参加メンバー、私自身も多く頂くことができました。今回学んだことを今後、実践していくなかでも疑問点や迷うことなどもたくさんあると思います。更なる育成支援や伴走など引き続きご相談させて頂ければと思います。
ーーーー本日はインタビューのお時間を頂きありがとうございました。今後ともぜひよろしくお願いいたします。
関連資料ダウンロード
スクール形式で学ぶ「インサイトスクール」
インサイトフルな人材になるために不可欠な”11のスキルとマインドセット”を座学で学べます。