既存ユーザーの離反を防ぎながら新奇性を打ち出すデコム式アプローチ
はじめに:若年層の新規獲得が抱える「ジレンマ」
多くの企業がZ世代を含む若年層の取り込みを目指していますが、実際にマーケティング施策を検討する中で必ず浮上するのが「ジレンマ」の存在です。
- ・新しいアイデアを打ち出すと既存ユーザーが離れる
- ・既存価値を守ると新奇性がなく若年層が振り向かない
こうした矛盾の板挟みは、特に成熟カテゴリやロイヤル顧客が多い商品ブランドにおいては深刻です。
本記事では、インサイトリサーチの先駆企業・株式会社デコムが実際のクライアント支援で用いている手法をベースに、このジレンマを乗り越える戦略を解説します。
1. そもそも「良いアイデア」とは何か?
マーケティング施策における「良いアイデア」は、次の2軸のバランスにより評価されます。
- ・新奇性(目新しさ)
- ・購買意欲(買ってみたいと思えるか)
この2軸をマトリクスで整理すると、以下のように4象限に分けられます。
新奇性 | 購買意欲 | 評価 |
高い | 高い | ◎有望アイデア |
高い | 低い | △ニッチすぎて広がらない |
低い | 高い | △既存商品と類似でトライアルされにくい |
低い | 低い | ×魅力のないアイデア |
つまり、「新しさ」と「買いたさ」の両立ができて初めて有望なアイデアになるのです。
しかし現実には、新奇性を重視しすぎると既存ユーザーに受け入れられず、新しさを抑えると若年層に響かないという難しさが生じます。
2. 解決策は「既存価値+未充足欲求」のハイブリッド構造
このジレンマを打破するためのアプローチが、「既存価値を保持しながら、新たな価値を上乗せする」という考え方です。
ステップ1:既存ユーザーの“本質的な欲求”を理解する
まず、現在のユーザーがその商品を選ぶ理由=充足されている欲求を明確にします。
ステップ2:新規ユーザーが抱える“未充足の欲求”を発見する
次に、まだユーザーになっていない若年層が「こうあってほしい」と感じている、満たされていないニーズを捉えます。
この2つをもとに、価値構造を再設計し、「変わらない安心」と「新しい魅力」の両方を提供することが理想です。
3. 事例:制汗剤市場に見る“ストレス発散”という新価値
高校生男子の使用率が低下していた某制汗剤ブランドでは、以下のようなステップで新しい価値を導入しました。
既存ユーザーの価値
- ・機能価値:汗を抑える
- ・情緒価値:リフレッシュできる
- ・関係価値:キャップ交換などで仲間との絆を感じる
新規ユーザー(高校生男子)の未充足欲求
リサーチから明らかになったのは、「ストレス発散」に対する潜在的ニーズ。特に部活や人間関係でのモヤモヤを、一気に吹き飛ばしたいという感情が存在していました。
再設計された価値構造
- ・従来の汗対策、リフレッシュは維持
- ・新たに「一撃で気分を変える」「心も吹き飛ばす」強烈な冷感性を上乗せ
これを実現するため、アイスタイプの強冷感スプレー+トリガー噴射設計にリニューアル。さらに、「居眠り(いねむり)ゼロプロジェクト」というプロモーションで高校生の奮闘に共感し、眠気やストレスを吹き飛ばすメッセージを発信しました。
4. デコム流「インサイト発見のプロセス」
若年層の未充足欲求を発見するために、デコムではアートとサイエンスの両面からインサイトを構造的に抽出しています。
【アート】定性情報の大量収集と仮説構築
- ・心理投影法やn=1辞書による1人の体験を重視した探索調査
- ・海外も含めた1000人規模の事象収集
- ・シーン・動機・感情・背景の構造で記述し、意味を抽出
【サイエンス】定量調査による共感性のスコア化
- ・導き出したインサイト仮説を数百人規模で共感度を検証
- ・「わかる/わからない」を数値化し、汎用性・拡張性を評価
- ・属性別(年代・性別)にセグメント比較も可能
このアプローチにより、一人の生活実感を起点にしながらも、ビジネスに活かせる“再現性あるインサイト”へと昇華させています。
5. インサイトマップで仮説をビジネス化する
デコムでは、抽出したインサイト仮説を「インサイトマップ」という4象限フレームに整理します。
- ・顕在 vs 潜在
- ・行動ベース vs 感情ベース
これにより、どの仮説がどのような施策に向いているかが可視化され、チーム内での共有やアイデア出しの土台になります。
まとめ:若年層獲得の鍵は「未充足欲求」にある
Z世代をはじめとする若年層の新規獲得には、「既存価値」と「新奇性」の両立というジレンマがあります。しかし、既存ユーザーの充足欲求を守りつつ、新規ユーザーの未充足欲求を上乗せするというハイブリッド構造での価値再設計によって、その壁を乗り越えることが可能です。
デコムが実践する定性×定量のハイブリッド調査とインサイトマップによる価値構造化を活用することで、ただの思いつきに終わらない、「買いたくなる新しさ」を実現できます。
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若年層のインサイトを活かした商品開発・プロモーション設計をご検討の方は、デコムの「伴走型インサイト開発プログラム」をご活用ください。
- ・オンライン無料相談
- ・実際の事例紹介
- ・インサイトマップの導入支援
など、ニーズに合わせた柔軟なサポートをご提供しています。
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参考:用語定義
- ・インサイト:【定義】生活者自身も気づいていないが、行動を突き動かしている「根源的な欲求や価値観」のこと。
- ・未充足欲求:【定義】現在の商品やサービスでは満たされておらず、生活者が無意識的に求めている潜在的ニーズ。
- ・インサイトマップ:【定義】抽出したインサイトを「顕在/潜在」「行動/感情」の軸で整理し、活用方針を明確にするための可視化ツール。
- ・ハイブリッド調査:【定義】定性調査と定量調査の両方を活用し、主観と客観をバランスよく統合した分析手法。
参考:よくあるご質問(FAQ)
Q1. インサイトリサーチと一般的な市場調査の違いは何ですか?
A. 一般的な市場調査が「事実の把握」を目的とするのに対し、インサイトリサーチは「行動の裏にある動機や感情」を掘り下げることに重点を置きます。
Q2. 未充足欲求とは何ですか?
A. 顧客が「まだ満たされていない」「こうあってほしい」と感じているが、まだ顕在化していない欲求のことです。
Q3. インサイトマップとは何ですか?
A. 抽出したインサイトを「顕在/潜在」「行動/感情」の4象限に分類し、施策設計やチーム共有に役立てるフレームワークです。
Q4. 若年層向けのプロモーションに活用できますか?
A. はい。若年層の生活背景や価値観に基づいたメッセージ設計にインサイトを活かすことで、深い共感を得ることが可能です。
Q5. インサイト仮説の定量検証はどのように行われますか?
A. 数百名規模の調査により、インサイトに対する共感度をスコア化し、年代や性別別の比較分析も可能です。
会社紹介:株式会社デコムについて
沿革
株式会社デコムは、2001年の創業以来、「人間の本質を捉えるインサイトリサーチのプロフェッショナル集団」として、マーケティングリサーチ業界をリードしてきました。
独自のn=1リサーチ技法やインサイトマップなどのフレームワークを開発し、生活者理解から企業の価値創造を支援しています。
事業内容
- ・インサイトリサーチの設計・実施(定性・定量調査)
- ・商品・サービス開発支援
- ・コミュニケーション戦略立案
- ・社内研修・ワークショップ提供
- ・生成AI×リサーチの自動化支援
BtoC企業を中心に、食品・化粧品・日用品・教育・ヘルスケアなど幅広い業界の大手企業に対して、深層理解に基づいたマーケティング支援を行っています。