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日常系YouTuber、なぜ『他人の普通の日常』が支持されるのか?

2019年後半から、日常系YouTuberのinlivingさんや、モーニングルーティーンなど「女の子の普通の朝の風景を動画にしてみた」系が流行しています。

YouTubeと言えば、HIKAKINさんやはじめしゃちょーさんに代表されるような、オチや急激な展開のある起承転結がよく視聴されていました。しかし、最近は「朝なんとなく流している」「家に帰ったらなんとなく見る」という女子も多く、腰を据えて観る形態から、ながら視聴へと進化しているのです。

その背景を探ってみました。

「日常系YouTuber」が愛される理由

私たち株式会社デコムの運営しているサービス「Trend banK」に、日常系Youtuberの人気の理由に迫れそうな事象を幾つか発見しました。
日常系の事象1

この事象からは、ただただ平常・平穏な時間の経過に身を任せたいという欲求が見て取れます。要は、次の展開を考えたくないのです。考えるという行為自体、カロリーがかかってしまって負荷なのです。

休憩をしようと、コーヒーを飲もうが煙草を吸おうが、何かを選択するという行為に負荷がかかります。何もしなければ、何も選ばなくて良いし、ストレスもかかりません。

日常系の事象2

この事象からは、心地よさの源泉は「代わり映えのしない風景」だと分かります。何の影響も受けない、普通の景色がただただ過ぎ去ってはやってくるだけの「変化の無さ」が気持ち良い。

言い換えると、変化は「疲れる」「身構える」のだと思われます。

振り返ると2019年は変化の無さが重要だと思われるようになりました。書籍だと、ハライチ岩井さんの『僕の人生には事件が起きない』が大人気。「急展開」「壮絶」という単語が嘘っぽく見えた1年でしたね。

「何も起きない日常」を愛する人は増えているのかもしれません。

新奇な消費者行動に垣間見れる「アップデートし続ける生活からの離脱」

「日常系YouTuber」が受け入れられる要因として、「アップデートし続ける生活」からの離脱欲求が考えられます。

SNSには新しいスポットに行き充実した画像を上げる友人がいて、意識の高い発言が飛び交っています。私も何か変わらなくてはいけないのでは…と焦り、タスクフルになって次にやることを考え、将来の計画を考え、新しいことに挑戦する。

気付いたら何もかも中途半端で、疲弊しきった自分がいる、そんな状況から抜け出したいとき、日常系YouTuberの映像には、企画なし、展開なし、ヤマなしオチなし意味なし、何も起こりません。ただただ時間だけが過ぎていくのです。

ですが、何も変わらない、アップデートのない毎日こそ平穏で価値のあるものだと思うのです。少なくとも、そういう価値観がジワジワと広まっているのではないでしょうか?

動画を見ると、最新のネタや話題を伝えるのではなく、「すっと収まる」収納へのこだわりや、「なんでもないけど大事にしているものや習慣」などをYoutuberが紹介しています。

感情が揺さぶられるような興奮や驚き、感動などは一切ない代わりに、スピーディーな日常の中では見逃してしまいそうな「細部に宿るほんとうに大事なもの」への目線を気づかせてくれるのです。

自分の生活の中のなんでもない「習慣」であったり、「くせ」であったり、なんだか捨てられないものにこそ、自分らしさの片鱗が宿っているようで、ありのままの自分の生活がなんだか愛おしく思えるような気がしてくるのではないでしょうか?

日常系Youtuberは、日々更新されつづける世界の中で、唯一の『アップデートのない』時間を愛おしむことができるという価値を提供しているからこそ、2019年になって一気に浸透してきたのです。