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【第3回目】『大松孝弘×山口周氏 対談ログ』~ほんとうの欲求は、ほとんど無自覚~

アートな世界をテクノロジーがサポートする

アートな世界をテクノロジーがサポートする

ーー(司会進行:松本)ここで少し違う話題を入れさせて下さい。事前に大松と今日何を話すか議論する中で、アート&サイエンスを人力&テックという観点で話せると面白いよね、と気付きました。以下のURLをご覧いただきたいのですが…。

 

[レポート]デザインスタジオ「Fjord Tokyo」開設 Fjordが考える“デザイン”の概念とその根幹とは

大松:乳ガンを見つけるのに人間のみだと3.5%見過ごす、AIのみだと7%見過ごすので、人間の方が良いですね…って話ではなく、人間とAIが協業すると0.5%の見逃しに終わるみたいなんです。人間がAIに勝っているのは経験とか勘とかセンスで、違和感ってレベルで脳が反応する。ちょっと怪しいなとか、AIで分からないレベルでも気付ける。アートな世界をテクノロジーがサポートすると、さらに面白いなと思うんです。

山口:チェスもそうですよね。2014年に行われたフリースタイルチェス選手権では、人だけでもいいし、人工知能だけでもいいし、人+人工知能でもいいというスタイルが採用されました。

アドバンスト・チェス – Wikipedia

今一番強いのは、人+人工知能の組み合わせです。しかも、グランドマスターという将棋で言うところの名人のような方がいるんですけど、グランドマスター、スーパーコンピュータの人工知能が登場したフリースタイルで、優勝したのはアマチュア2人とMacbook pro数台でした。

これから先は、コンピュータとの協業を上手にデザインできる人、直感は人間がやって、ある程度絞り込んだらコンピュータに任せる人が勝つんでしょう。トーナメントの結果は関係者にとって衝撃を与えたようです。

この先、僕らが考えているのとはちょっと違う新しいアートとサイエンスの組み合わせができるユニットが出てくるんでしょうね。

大松:人間が本当に求めている事をアートとサイエンス、人力とテックと言っても良いのかもしれませんけど、双方が上手く組み合わさって理解すれば飛躍的に良くなる世界が実現すると良いなぁと思うんです。

山口:人間v.s.人工知能という文脈で語られるケースが多いですけど、別に仲良くすれば良いじゃん、って思いますけどね。過剰に対立を煽るような構図が本当に良くない。伝統的にそうなんですよ。1960年代に騒がれていた時から…「2001年宇宙の旅」だって人間が機械にぶっ殺されるでしょう。アラン・ケイが「子供がコンピュータを使えば、より豊かな情操教育が可能になる」っていう世界観を打ち出したんですけど…。本当にこれは良い例だと思いますね。

人が求めているけど充たされないものが共感に繋がる

人が求めているけど充たされないものが共感に繋がる

ーー(司会進行:松本)いよいよ60分が過ぎようとしていますが…最後に、大松から、最近デコムからプレスリリースを出した「共感フラワー」に絡めた質問をお願いします。

大松:先ほど不登校新聞の話をしましたけど、あれも「1人じゃない」という願望を抱いていたお母さんがいて、それが充たされたおかげで激しく共感につながったんだと解釈しました。

今、うちの会社では「共感」の研究をしています。人はどんなことに共感するのかをフレームにできないかと作ってみました。

人間のインサイト研究から生まれた共感スイッチの一覧「共感フラワー」を発表

共感フラワー

研究の元となったデータは「共感」という文字が含まれたTweetです。3000サンプルぐらい全部読み込んだんです。あとはWebサーベイ、アンケート調査でちょっとテクニックを使って、同じく3000サンプルぐらい集めて分析しています。

その結果、どちらも共通していたのですが、人が求めているけど充たされないものが共感に繋がると分かってきたんです。

「共感」をやろうと思った背景なんですが、ソーシャルグッドとかSDGsとか、そういう文脈が語られるようになってきました。それって、だれも反対しません。でも、家に帰ると大量の食べ残しを捨てちゃっている。言っている事とやっている事が違うのがSDGsの世界だなあと思っていました。その行動の壁を突き動かすには、共感を捉えないといけないと思うんです。

山口:共感の真逆って、僕は「説得」だと思うんですよ。説得って本当ダメな行為だと思う。説得より共感、データよりストーリー、モノより意味って時代なのかなって気がしますね。

ところで、キハ105系はカッコイイとか、そういう鉄道オタクの共感なんかどこに入るんですか?

大松:(笑)…推しメンとかと一緒ですね。好きなタレントを推す。純愛、連帯かと思います。「1人じゃない」と同じかもしれませんね。かっこいいと感じる人たちが横で繋がり合う感じですね。

山口:ジャニーズのようなアイドルビジネスもそうですし、ライブが今大きなビジネスになってきているというのも、1人じゃないという共感の大切さなのかもしれないですね。自分自身が好きっていうより、好きな人が集まって一緒に楽しむって。

大松:連帯に位置すると思いますね。

山口:なるほど〜。

大松:「だいたい良いんじゃないですか時代」って色んなところで言っているんですけど、講演なんかで最後に質問をお願いしますって言うと、聴講者から「だいたい良いんじゃないですか時代が、さらに、だいたい良いんじゃないですか時代になると、人ってどうなるんですか?」と聞かれるようになったんです。

「私たちってなんで生きているんでしたっけ時代」になるんじゃないでしょうか、と答えたんです。つまり、みんな生きる意味を探している。だから、ソーシャルグッド、SDGsみたいなのものに価値を見出す。社会課題の解決にもつながるし、めっちゃ儲かる。この両方が実現する会社には投資するという投資家の判断にも繋がっていて、めちゃくちゃ儲かっているけど社会に役立っていない会社には投資しない、社会に良いことしているけど儲かっていない会社も同様。ますます、そうなっていくんじゃないですか。

社会に良い、儲かる、この2つが近付いてきているんじゃないかと感じています。社会課題を解決するという意味のあるブランドとそうじゃないブランドがあったら、意味のある方を選ぶ。そういう時代ですよね。

つまり、モノを選ぶ基準が変わってきてしまっている。お金にいよいよ直結してきました。昔は社会貢献とビジネスって、分けて考えましょうという傾向がありましたけど、変わってきました。

ほんとうの欲求は、ほとんど無自覚

ほんとうの欲求は、ほとんど無自覚

山口:パーソナリティテストってありますよね。言葉で聞かれて「〇〇と思っている」「〇〇と思っていない」と答えるんです。他にも、その人が本当に関心を持っていることを調べるために、ピクチャーストーリーエクササイズと呼ばれる、非常に曖昧な絵にストーリーを書かせるテストがあります。

私自身、その両方を受けたんです。被験者が実際に何がお気に入りか、極論を言うと脳がどういう時にドーパミンを出すかまで調べます。

ただ、その結果が真逆に出たんです。例えばパーソナリティテストでは「人と仲良くするのが苦じゃない」「人と仲良くするべきだと思っている」「友好的な関係を築くのが大事だと思っている」という項目で高い数字が出てきた。ピクチャーストーリーエクササイズでは、人に全く関心がないと出てきた。で、多分そうなんです(笑)。

威張り散らしちゃいけないとか、目立とうとするのはよくないとか、そういう結果が出ているんですけど、裏返すと、それをやりたがっているということでもあるんです。

「僕、そういうの全然好きじゃないし、ブランド物とか身に付けるのも好きじゃないですよ」とカウンセラーに言ったら「山口さん。高級車を乗っている人や、物凄く高いブランドを身に付けている人を見たら、腹が立ちませんか?」と聞かれて「あ、立ちます!」と答えたんです。

「そういうの関心が無い人は、本当に関心が無いんです。自分がそうしたいのに、そうやってはいけないと思っているから、あなたものすごく腹立っているんですよ」

そうと言われて、ちょっと救われた気持ちになりました。

今日のテーマである「ほんとうの欲求は、ほとんど無自覚」って本当に大きなテーマですよ。相当精密なアセスメントをやったとしても、言葉に頼っている間はなかなか出て来ないと思うんです。逆に言うと、それをゼロから開発したデコムさん凄いと思います。

物理的な方法が解決されてしまった中で、ここから個人がどうやって楽しんで生きていくか、意味を与えていくか、どうやって共感を得てビジネスを広げていくか。ここは掘り甲斐があるなと思って、今日は本当に勉強をさせて頂いたなと思っています。

大松:山口さんのデビルな欲求が、実は本心だったという感じがして…。まさにエンジェルマインドとデビルマインドの話ですよね。

山口:「~べき論」と「本当はしたい」のプロファイルのズレが大きい人ほど葛藤を抱えています。そういう人は、良いコンテンツを生み出すんだと思うんです。あれやこれやと色々と悩んでしまう。エースのプランナー、マーケターは必ずデビルマインドに目配せをしていますよね。

「ハウルの動く城」って、皆さんご覧になられましたか? ダイヤルを回すと時空を超えてある場所に移動するんですね。ロンドンの市内だったり、荒れ地だったり。ダイヤルは四分割されていているんですが、一か所真っ黒のところがあります。そこは、真っ黒な空間なんです。闇なんですよね。

鈴木さんというプロデューサーが「ヤミを持たせろ」って言ったらしいですね。4分の1ぐらい、本人も「これどこなんだ」ってダイヤルが必要だろ、と指摘された。闇って人間は誰しもが持っているもんだし、持っている方が健全だと言ったらしいです。それでそういうダイヤルになったらしい。

あるいは西武の堤さん。西武グループが都市計画をやっている時に、非常にきれいな区画整理された街を提案すると、堤さんは「ダメだ」と言ったらしいんです。どこかに横丁というか、どぶ板横丁みたいなのを作って、わざと雑多で猥雑なものでそこに隙間を作りなさい、と。人間って綺麗でエンジェル的なものばかりだと息が詰まるんですよ。

エンジェルとデビル、その狭間に人の人たるものがあるとおもいますし、そこに経済的な価値とか、人の大きな悩みや葛藤がある。それが解決されるとビジネスになりますよね。それをクリアにされたので、大松さんはよほど長いこと考えたんだろうな、と感じています。本当に勉強になりました。

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