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大人気ゲーム『デスストランディング』の魅力に潜む、サステナブル社会の実現のヒント 

2019年までの全世界累計販売数がシリーズ累計5,500万本を超え、世界中で愛されてきたゲーム、『メタルギア』シリーズを生んだカリスマゲームプロデューサー小島秀夫。

その小島秀夫プロデュースの世界待望の新作ゲーム『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』が2019年11月に発売後、初週に全世界で18.6万本を売り上げ、現在も驚異的な人気を集めています。

なぜこれほどこのゲームは世界中で愛されるのでしょうか。その背景を探ってみました。

「DEATH STRANDING」が愛される理由

このゲームの主人公サムに課されるミッションは、「荷物を運ぶ」こと。人々が必要とする荷物、道具や武器、薬、思い出の品、さらには人間までをある地点からある地点へと運んでいくことでゲームは進んでいきます。

荷物を運ぶことで分断されていた地域が繋がっていき、世界が新しい姿に変わっていく様子を楽しめます。

しかし、一見すると「ただ荷物を運ぶだけ」に思えるこのゲームにどんな魅力が潜んでいるのでしょう。

私たち株式会社デコムの運営しているサービス「Trend banK」に、『DEATH STRANDING』の人気の理由に迫れそうな事象を幾つか発見しました。

デスストランディング1

この事象からは、どんな状況でも自分の中にある原動力・行動力を信じて、自分の思うがままに歩みを進めていきたいという欲求がみてとれます。

骨折という自分が弱り切っている状況で自分の力を取り戻すために、「自然の中で一歩一歩進んでいく」体験を意識的に求めているのが特徴的です。

道なき道を言葉通り「乗り越えて」いき目標地点に到達することが、自力を認め自信を取り戻すことにつながっているのでしょう。

デスストランディング2

街に存在する無料給水スポットの場所をGPSで確認できるこのアプリは、SDGsの理念が一般化しつつある現代において、「サステナブルな社会をリアルに実感できるもの」として賞賛されています。

水という生命活動に欠かせないものをいつでもどこでも無料で手に入れられる、「優しい世界に包まれる」実感を与えていることがこの事例の特徴だと思われます。

SDGs、サステナブルといっても話が壮大すぎて自分とは関係がない、となってしまっては無意味です。

一人一人が独立しながらも、お互いの生活や行動を間接的に支え合う「優しい世界」を実際に体感することが、今後サステナブルな社会を実現するうえで肝要となっていくでしょう。

「孤独な荷物運び」に潜む「個々の自力による優しい世界の構築」が、サステナブルな社会の実現の鍵

最近のゲームはオンライン化が当たり前となり、「みんなで協力して敵を倒していく団結感と爽快感」が得られるゲームが人気です。しかし「わかりやすい協力感」が強調される分、「個人の活躍=自力での達成による自信」は薄まっていきます。

「DEATH STRANDING」もオンラインゲームではありますが、基本的には一人で重い荷物を背負い、岩場・森・雪山など広大かつ厳しい自然環境を、自らルートを決め自らの足で目的地を目指します。

その際に活躍するのが、梯子とロープです。乗り越えられない岩場や、飛び降りるとダメージを受ける谷場、急流で荷物を持ったまま渡れない川などを進んでいくために、梯子やロープを設置しながら歩みを進めていくのです。

大雨や雪など厳しい天候、背負った荷物を狙う盗賊、はたまた異空間へと引きずりこもうとする幽霊までもが登場し、目的地までたどり着くまでの道には様々な困難が待ち受けています。

数々の試練を乗り越えていった先ではカメラがゆっくりと引いていき、静かに音楽が流れ始め、壮大な景色の中でようやく安心できる目的地にたどり着いたことを知らせてくれます。

自らの想像力を駆使し道なき道に新たなルートを開拓してきたことを思い返しつつ荷物の配達を完了する瞬間は、通常のオンラインゲームでは感じることのない「自力を認め自信を得る」体験です。

さらに「DEATH STRANDING」のオンライン要素として特徴的なのが、「他者のプレイ痕跡がゲーム環境に残る」という点です。

自分の設置した梯子やロープはもちろん、他者が設置した梯子やロープ、雨宿りスペース、休憩スポット、応援のメッセージなどが世界に痕跡として残っていき、それらを自分の旅の中で活用することができます。

重い荷物を背負うため梯子やロープを持参できる数は限られます。アイテムを使い切ってしまっているときに谷に滑り落ちて絶望する、しかし回りを見渡すと誰かが設置してくれた梯子があって助けられる。

自分の設置した梯子を活用した他のプレイヤーから感謝のメッセージが届く。限界状態の中でお互いの生命維持と目的達成をサポートし合っていく。

こういった経験を通して、通常のオンラインゲームのような一回限りの短期的なプレイの共有ではない、「協力による優しい世界・環境の構築」を実体験として味わえるのです。

それぞれの個人が想像力を駆使して、自らの身近な目的を達成しながら自信を得ていきつつ、同じ目的を持った人が間接的に結びつき合っていくことで、自然に優しい世界と環境が構築されていく。

「個々の創造性の地道な発揮による自信の回復」と、それらの「間接的な結びつけと協力による、優しい世界・環境の実感」が得られることがこのゲームの魅力であり、今後のサステナブル社会を考えるためのヒントであると言えるでしょう。