2020年3月31日に、渋谷駅の東急東横店が閉店します。渋谷の街を象徴していたともいえる商業施設が消えてしまうことに時代の変遷を感じます。
またそれ以前にも、1700年創業、320年の歴史を誇る山形の百貨店「大沼」が、2020年1月末に破産申請し、経営破綻しました。その後も、不採算店舗の整理によりそごう徳島店が閉店したことで、山形県、徳島県が「百貨店がない県」となりました。
山形や徳島は売上の問題が主でしたが、渋谷の場合は、売上も当然原因の一つといえるでしょうが、「街」の再開発が主因のようです。そこで今回考えたいのは、百貨店のような象徴を失いつつある「街」と人との関わりについてです。
「渋谷」という記号が今なお全世界から人を呼び寄せるパワーを持っているにもかかわらず、それでもなぜ「街」全体として変わらねばならないのか、について考えてみたいと思います。
なぜ渋谷は変わらなければならないのか?
私たち株式会社デコムの運営しているサービス「Trend banK」に、「街が変わらなければならない」理由を考える上でヒントになりそうな事象を幾つか発見しました。
主婦の路地裏散歩のシンプルな事象です。この事象から見てとれるのも、単純に「街」を回遊することへの欲求です。しかし、できるだけお金をかけずに、ただ単に「街」を歩きたいという欲求は、本来「街」が持つ機能とは乖離しているとも思えます。
これまでは、「街」に出る目的といえば、ショッピングでした。その結果、駅などの要所要所に百貨店のようなショッピング施設が造られ、それを中心とした「街」づくりが行われてきました。こうした商業施設が「街」への集客装置の役割を果たしていたと言えます。
同年代の女性の事象です。こちらの方も外での「自由気まま」な行動を求めて、買い物などへ行くにも全て自転車で移動します。「外の空気」でリフレッシュなど、これまでの「街」が持っていた価値とは違う方向の欲求を、自転車で「街」を疾走することで充たしているといえるのではないでしょうか。
これらの事象からいえるのは、普段の日常生活で感じている閉塞感を打破するような解放感が、今の「街」には求められているということではないでしょうか。では、一体この解放感は「街」のどういった価値と結びついているのでしょうか。
現代人が「街」に求める「公共性」という価値
百貨店は、読んで字の如く、そこに行けば「よろず入用なものが揃えられる」というのが、本来の価値です。そのために、上に下に何層にもわたるタテ構造の施設である必要がありました。人口に対して面積の狭い日本では特に大事なことです。そして、そのタテ構造は、平坦な「街」全体を代用していたともいえます。
本来平坦だった「街」をタテにして、その中で完結する構造を作るのは、来る人にとっても便利だし、来てもらう側にとっても囲い込める、両者にとって益のあることでした。
しかし、先ほどご紹介したトレンドバンクの事象の観点からすると、このタテ構造が逆に閉塞感を与えてしまう。それは、タテ構造にすることによって、本来「街」が持っているべき「地続き」感が失われてしまうことが起因しているのではないかと考えます。
2017年に建築コミュニケーターの田中元子さんが著した「マイパブリックとグランドレベル ─今日からはじめるまちづくり」では、この「地続き」を「グランドレベル(1階)」という言葉で表現し、そこがプライベートな空間とパブリックな空間の「交差点」であり、その活性化こそが、「街」が元気になるためのキーだと述べられています。
つまり、「1階」こそが、我々のプライベートな空間と公共性をもったパブリックな空間とを結びつける。結果として、上下に動けば動くほど、平坦さを前提とする「地続き」感が失われ、「公共性」が失われてしまうということです。
実際に、現代における「地続き」の価値に目をつけ、ビジネス化した例があります。
タワーマンションはタテ構造の象徴とも思えますが、そこに「地続き」的な価値も付け加えることで消費者の目を引こうとしている例です。
もちろん、アウトドアだけが「地続き」の価値を産んでいるわけではなく、昨今復活してきている立ち飲み屋さんも、お客が雑多に入り乱れ、すぐに出たり入ったりできる平らな構造からも、「地続き」であることに「公共性」を感じている例といえるのではないでしょうか。
百貨店が中心にあった街が変わっていくのは、今求められているはずの平らな「地続き」感からくる「公共性」を前提とした設計になっていなかったことに起因するのではないかと考えます。
今後渋谷の街が最終的にどのような姿に変わっていくのかはわかりませんが、「平ら」、「地続き」、「公共性」といったワードを念頭に置きつつ考えると、違ったアングルからの生活者の行動と「街」との関係性が見えてくるかもしれません。
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