2020年1月にHuluで放送が始まった「Nizi Project(略して虹プロ)」。
(Nizi project 壁紙ダウンロードより)
韓国の超有名プロデューサーが日本人女子で構成されるアイドルグループ「NiziU」を作り上げる過程を追った番組です。日本ではSNSを中心に瞬く間に話題となり、ファンを公言する芸能人も続出。Twitterでは放送期間中に10回以上のトレンド入りを果たしました。
(Nizi project 壁紙ダウンロードより)
虹プロ大流行の特徴の一つとして、心に決めた「推し」が特にいるわけではないのに番組を見続けた人が多くいたことが挙げられます。1回1時間弱で全20回に及んだ「虹プロ」。ドラマの1クールを優に超える約半年の間、推しのいない人間を見続けさせた魅力は一体どこにあったのでしょうか?
番組に出演している「人」に起因する魅力として、
・参加者たちの実力がとても高かったこと
・オーディション番組によくあるドロドロした人間関係がなかったこと
・敏腕プロデューサーの言葉に人間愛がにじみ出ていたこと
などが既に至る所で語られていますが、それだけで見続けるかといわれると少し疑問です。
もちろん上記のようなことも虹プロにおける大きな魅力ではありますが、今回は「番組そのもの」について、インサイトの視点で考えてみたいと思います。
「虹プロ」番組そのものから見える源泉
虹プロは日本国内8都市とハワイ、LAの全10箇所で地域オーディションを開催し、1万人以上の応募者の中から選ばれた合格者26名での東京合宿、さらに東京合宿合格者の14名(のちに1名が辞退し13名となる)で行われた韓国合宿を経て9名のデビューメンバーが選出されるまでを追っています。
お分かりのようにセレクションのタイミングが何度もやってきます。さらに韓国合宿に入ってからは最下位を2回とったら脱落という条件の順位付けのテストが何度となく行われます。「落ちる」ことが常に身近にある番組構成になっているといえるでしょう。
さらにこれはAKB総選挙のようにたった1回のシングル表題曲の選抜メンバーを決めているのではありません(もちろん総選挙結果もそれ以上の影響力を持ちますが)。「来年こそは」はなく、「落ちたら終わり」です。デビューを本気で夢見る少女たちの、今この瞬間の生死を見る番組なのです。
番組は地域オーディション時から東京合宿に残る26名を順にフィーチャーし、視聴者は東京合宿の中盤頃には、顔と名前のみならず「この子はダンスがピカイチだけど歌はまだまだ」「この子はダンスは微妙だけど高音がすごい!」といったことまでが掴めるようになり始めます。韓国合宿の頃には、視聴者にとって参加者は全員「知っている子」になっているのです。これも300人を超える「ほとんど知らない子たち」の順位付けを見るAKB総選挙との違いですね。
AKB総選挙との違いでもう一つ。虹プロは順位を昇順で発表します。もし降順の発表であれば、視聴者はここまでの放送でメンバーの実力やプロデューサーからの評価を知っているので、発表が進むに従って該当メンバーの予想がつくようになっていってしまいます。
しかし最後になればなるほど予想がつかないのが昇順です。「最後の一枠」が文字通り最後に発表されていることは大きな特徴といえるでしょう。
生死を分ける展開への緊張、興奮、そして期待
虹プロは、
「落ちたら終わり」のオーディションで訪れる、「落ちる」こと
というオーディション番組には当たり前とも思える魅力を、次の3つにより高めたといえます。
・定期的な順位付けの機会
・参加者全員を「知っている子」にする、個々人への密着
・最後に発表される「最後の一枠」
これによって我々推しのいない視聴者は、他人事ながらこの「生死を分ける展開」にほどよい感情移入をすることが可能になり、最後まで緊張と興奮を味わい、飽きることなく次の展開への期待を持ち続けることができたのではないでしょうか。
このような心理状態が視聴者にとって価値になる背景には、生死を分けるような一世一代の大勝負なんて自分の人生にはそうそうない、という状態があります。だからこそ自分の人生にはないものをエンタメに求める多くの視聴者に刺さり、社会現象となるまでに至ったのだと考えられます。
虹プロが「アイドルとファンだけが楽しむ番組」に留まらず、「ハイレベルなエンタメ番組」となることができたのは、番組そのものの魅力が大きく影響しているといえるのではないでしょうか。