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新製品開発力を組織的に底上げし 次世代を育てる:後編 <小林製薬様>

前編に続き、小林製薬株式会社 日用品事業部 研究開発部 アイデア発想推進グループ(TIP)マネージャー・田原申也さんのインタビューをお届けします(取材・文責:デコム土井)。

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小林製薬の基幹部門 日用品事業部の中で、アイデア発想力の育成を担う新組織「TIP」を立ち上げられた前編に続き、日用品事業部の各製品カテゴリーの開発グループの皆様に、デコムのインサイトフル研修をご導入いただきました。

2グループにインサイトフル研修を導入。人間を出発点にした共通認識で仕事が楽に

―――TIPにご導入いただいた後、2つのグループにインサイトフル研修を導入いただきました。決め手は?

田原:スーパースターから脱却し、他者と協働しながら働ける組織を作るためには、そもそも概念的で抽象的なインサイトについて、共通認識を持つ必要があります。言葉できっちり定義されていて、インサイトからアイデアにつなげていく後工程まで体系化できているプログラムに価値を感じました。事業部全体の共通認識にできて、初めてインサイトについてディスカッションできる土壌が整うだろうと考えました。

田原:小林製薬は、一個人がアイデア提案をする機会が多く、毎月チャンスがあるのですが、一個人がどれだけ良いと言っても、周りに共感されなければ製品化されることはありません。自分たちが理解しがたいような価値観について、アンテナがピンと立って良いぞと思った人が、良いぞを隣の人に伝えられないと開発はうまく進まないからです。まずは「インサイトの4要素」のフレームを活用して、いかに他者に理解してもらえるかという所から始める必要があると考えました。生活者がこういうシーンで、これがドライバーになってエモーションがどうでバックグラウンドにこれがあるからだと、端的に意見交換できるようになる点に魅力を感じ、事業部全体に広げたいと思いました。社内のアイデアプレゼンに至るまでの製品開発のプロセスが大切だと思っていますので、そこにデコムさんの考え方をどれだけ取り入れられるか、チャレンジですね。

―――2グループに展開した後、日用品事業部内にどのような変化がありましたか?

田原:前向きにインサイトフル研修を受講してくれたメンバーは、デコムシート(デコムのフレームワーク)を利用してTIPと同じ共通言語を使いながら仕事をしてくれるようになりました。共通認識があるのでやりやすくなったと感じます。まず❝人間を見に行くこと❞が第一フェーズ。その後に市場の未充足とブリッジさせていくことで、はじめて新しい価値になることや、人間を見に行く過程では効率は重視されるべきではなく、捨てアイデアも当然出る、という考え方で議論できるようになったのが変化の一つですね。メーカー視点はあえて忘れないといけないね、という発言が議論の中に自然に生まれています。生活者視点でインサイト/ニーズを見出すフェーズと、見出したインサイト/ニーズに対して解決策を提案する製品開発フェーズがありますが、このメーカー視点での製品開発は後なんだということが明確になったことは、大きな学びでしたね。

―――よかったです。大松も「仮説は30個持て」「インサイトは1円にもならない」とお伝えていますね。日用品事業部全体で一気にご受講されるのではなく、1グループずつ、メンバーに浸透できる速度で丁寧に進められたんですね。

デコムと研修内容を改善していく中で見えてきた、小林製薬の強みと弱み

―――他部門への導入には、どんなご苦労がありましたか?

田原:はじめての取り組みでは、ワークの「正解」を求める声が上がり、さまざまな価値観の考察があってよいことを理解してもらうのに苦労しました。2部門目では、私達はまだ初学者だという認識に立ち返って個人の理解度を深めるために、定期面談をグループではなく1on1形式で講師からのフィードバックタイムを長く設けるなど、デコムさんに柔軟に対応いただきながら、当時の私達にフィットする形で進行していただきました。

―――同じ日用品事業部にあるグループでしたが、課題や雰囲気が違いましたね。

田原:そうですね。1部門の研修が終わるごとに、大松代表や講師の方と振り返りミーティングをしていただけたのは有難かったです。デコムさんに日用品事業部のスキルをモニタリングしていただけたことで、私達がどこでなぜ苦しんでいるのかの理由が分かってきました。「小林製薬さんはアイデアを作っていく腕力がすごいですね、でも一方で生活者の情報をちゃんと分析できてますか?」というフィードバックは結構刺さりましたね。ニッチな市場を長年扱ってきたからか、短絡的に答えを求めてしまう傾向があることを自覚しました。得意なカテゴリーを離れると、生活者の事実をねじ曲げて無理やりカテゴリーの解釈に繋げていくようなことがワークの中でもありました。事実と妄想は違う、というところをはっきりさせていかなくてはという気づきがありました。

田原:振り返ると、これまでは生活者の課題が明確だったからこそ、生活者の情報をそのまま製品コンセプトに置き換えても良かったように思います。臭いからここに芳香剤を置こうといった「一対一の関係性」で製品コンセプトを作ってしまうと、私達企業から新しい価値を提供できませんし、私達が市場を発展させていくことができないので、今までのやり方しか知らないままでは厳しかったことに早く気づけて良かったですね。

正解を求めてしまう一直線の開発から、人間を起点にディスカッションできる組織へ

―――人材育成について、何合目にいらっしゃる感覚ですか。

田原:まだ2合目ですね。一直線ではない開発プロセスの定着や、日用品事業部全体に考え方を浸透させていきたいですね。私達は一年かけて新製品を作り上げるスタイルではなく、日常の開発業務の中で新製品を作り上げています。開発現場の意見交換の中に生活者インサイトの話題が何度も出てくるように、実業務の中にどう仕掛けを作っていくか、今TIPとして取り組んでいます。例えば開発承認のゲートになる資料に、生活者インサイトの履歴を残そうとしています。インサイトについて話す場をいかに多く仕組みの中に設けられるか、チャレンジしていきたいですね。

―――インサイトフル研修を受講した個人が、今後も生活者を意識しようとするだけでは組織は大きく変われないですよね。開発実務の中にインサイトを意識する仕組みを構築することで、ディスカッションが生まれ、実践の中で生活者理解が深まっていきそうですね。

 

組織改革に必要なのは、楽しさと のんびりした時間軸

―――今後のデコムのインサイトフル研修に期待することは?

田原:今は幅広い対象者で参加させていただいていますが、より学びたいメンバー向けのコースや、興味が出始めたメンバーをのめり込ませるようなエントリーコースがあると有難いですね。TIPのミッションの一つに「次世代の製品開発のリーダー、主人公を生み出す」というのがあります。次期リーダー創出についても、インサイトフル研修のような取り組みをご一緒できたら楽しいかなと思っています。新入社員はインサイトフル研修のウケがいいのですが、製品開発の理解が浅いから、うまくアイデアで表現できない面があります。一方で製品開発ができるメンバーは、生活者視点が分かっているつもりで抜けてしまい、価値と製品アイデアに距離が出てきてしまう。矛盾を抱えながら、やっていかなければと思っています。サービス拡充も楽しみです。

 

―――チームビルディングを兼ねて街歩きからインサイト発見とアイデア開発を行う「インサイトフルゲーム」というプログラムがあります。

田原:面白そうですね。こういうのはトップダウンではうまくいかないと思っています。現場のメンバーがインサイト発見やアイディエーションの行為自体が楽しいなと感じる経験とセットになることが大切だと思います。そういう意味では、TIPと一緒に取り組んだ開発メンバーが、楽しいな、また経験したいなと思って各グループに帰ってくれることが、成功指標の1つかもしれないですね。

田原:私は経営企画時代に、組織改革は製品開発の時間軸とは全く異なる、ということを学びました。組織の中には、様々なグラデーションの能力やモチベーションを持つメンバーがいるので、組織全体としてやんわりと同じ方向に向けていかないと、組織改革は進まないなと思っています。焦りすぎると歪みが出てしまいます。今回のインサイトフル研修でも、一喜一憂してやります、やめますと都度都度決めていたら、おそらく1度目で終了していたと思います。漢方薬的に徐々に効いてくると思っています。その中からいい芽はちゃんと見守り、うまくいってないところはダメだと排除するのではなく、じゃあどうすればいいのか、別の施策を当てるなど、のんびり考えて取り組む必要があるんだと、個人として思っています。

―――経営的な長期目線で組織改革を丁寧に楽しく実践されているTIPに伴走させていただけて嬉しく思います。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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