インサイトリサーチャーの久保です。
2023年12月にUHA味覚糖から発売された「忍者めし 鉄の鎧」が販売1週間ほどで売り場から姿を消すなど、近年「ハードグミ」が大ヒットとなっています。グミと言えばもともとは「子どものお菓子」という印象が強いですが、いつの間にかその存在は大人の「仕事のおとも」となり、2021年にはガム市場を上回りました。
大人に愛されることで売上を伸ばしているハードグミですが、その人気の秘訣は何処にあるのでしょうか?
今回はデコムで実施している生活者調査をまとめたメディア「Trend banK」(https://decom.org/service/media)に集められたn=1の事例を使ってその理由を探ってみたいと思います。
キーワードは「破壊」 大人のストレス発散お菓子商品
まずはじめに取り上げる事象はこちらです。
この事象から、硬いモノを「ゴリゴリ」食べる事やニオイの強いものを豪快に食べることがストレス発散につながることが分かります。決してポリポリと表現するのではなく「ゴリゴリ」と表現するあたりからは、奥歯のほうでかみしめている様子が想像できます。また、セロリ表面の凸凹からくる独特な食感もストレス発散に機能していそうです。
また、自主調査「Food, Drink, and Life Report」ではこの事象を以下のように飲食オポチュニティとしてレポーティングしています。
この事象の特徴として際立っているキーワードに「破壊」という言葉があります。
ただ食べるだけでなく、そこに「破壊」という、何かを壊す感覚や自分が壊れてしまいそうなほどの強烈なニオイが付与されることで頑固なストレスを発散するための大きなポイントになっているのです。
ハードグミが仕事中に食べるお菓子としてその地位を確立させたのも、その噛み心地で大人たちのちょっとやそっとのことではどうにもならないストレスを打ちのめし、気分を晴れやかにしてくれたからと推察することができます。人気のハードグミには、「ゴリゴリ」という噛み心地にふさわしい、四角い形や、ギザギザした形のものも多く見られます。また冒頭で取り上げた人気の「忍者めし 鉄の鎧」を見てみると、その最大の特徴であるグミの表面を覆う糖衣コーティングが、ハードグミの中でも一歩抜きんでて「破壊」の感覚を作ることに成功していそうです。
働く大人に提供できる「グミならではの価値」とは・・?
さて、ここまでは「噛み心地」という点に着目してみましたが、ここからは「グミ」という食べ物について焦点を当てて見てみましょう。
こちらは31歳の男性の事象です。普段は精密機器関係で、生産技術系のお仕事をしています。
なぜクッキーでもなく、ケーキでもなく「グミ」を作るのでしょうか。
また、なぜグミを作ることで童心にかえり、ワクワク感をよびさます事が出来るのでしょうか。
私なりに洞察してみたところ、グミの「食べても大して血肉にならなさそうな感じ」や「ゴムのような噛み心地」、「自然発生的には生まれてくることの無いカラフルな色と謎の透明感」、それら全体が発する、子供だましっぽい「うさん臭さ」に重要なポイントがあるのではないでしょうか。
普段は緊張感のある職場で精密機器の生産と誠実に向き合いながら、休日はその反対にある「うさん臭い」子供だましのようなグミに魅力を感じて没頭してしまう…
そんな自分の無邪気さを見つけ解放させてあげることが休日のリフレッシュにつながっているのです。
大人の仕事の合間にちょこっと食べるグミには、張り詰めた心を溶かし、自分の中に流れる童心や無邪気さを思い出させてくれるような力があるのではないでしょうか。
n=1を起点として生活者の隠れた欲求を導く
ここまでハードグミが大人に人気の理由をn=1の視点を取り入れて見てみようという試みをしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
確かにそうかもなと頷けた部分も、それはその人だけの感覚ではないか?と思われる部分もあったのではないかと思います。デコムではn=1の定性調査から得られたインサイト仮説をもとにコンセプトやアイデア開発を行い、市場の受容性や購入意向を定量調査で検証を行っています。
今回、是非感じていただきたいのはn=1に着目することで生まれる具体的なアイデアの多さです。
生活者の隠れた欲求を明らかにすることはもちろんですが、それに付随してそのインサイトを充たしてくれる具体的な要素を数多く拾うことができます。
1事例目では「噛み心地」や「破壊」に注目しましたが、それ以外でもストレス発散につながる要素としては「臭さ」も見逃せません。また、ある程度大きな口を開けてもぐもぐさせることも要素として活きていそうですし、「破壊」というキーワードが大切なのであればその演出方法はいろんな形で実現できそうです。
また、2事例目からは大人に無邪気さを気付かせる要素として、「透明」であることや「変わった味」であることも重要な要素なのだと気付かせてくれます。加えて緊張感が求められる現場仕事や、普段理詰めで考える理系男子にはよりグミが求められているのかも…?なんてことも推察できるのではないでしょうか。
n=1をきっかけに、筋の良いインサイト仮説や商品アイデア・プロモーションアイデアを考えてみませんか?
新商品を開発したい、具体的なPR施策を考えたい、という方はぜひデコムにお声がけください。
今回もお読みいただきありがとうございました。またの更新をお楽しみに。
(久保)