小田急グループの中で住宅やオフィスなどの開発を手がけている小田急不動産様。創業60年を迎え、「顧客感動」を企業ミッションとして新しい挑戦を続けられています。その一つに生活者の声にリアルタイムで耳を傾け想いをカタチに住まいを作るプロジェクト「想いカタチ.ファクトリー」があります。
今回、小田急不動産の分譲ブランド「リーフィア」において、暮らしにおける生活者の本質的な価値に根差した戸建て・マンションを企画するため、デコムのインサイトリサーチを実施いただきました。住宅事業本部開発企画部・戸建企画グループリーダーの本橋様、同部マンション企画グループの森脇様にお話を伺いました。(取材:山坂・プロジェクトデザイナー:手塚/大塚 文責:木村)
住まいが生活をより豊かにするにはどうすれば良いか?暮らしにおけるインサイトを捉える必要性を感じていた
――― 小田急不動産株式会社様について教えてください。
本橋:小田急不動産は、小田急グループの中で戸建てやマンション、またオフィスなどの開発を手がけている会社です。今年で60周年を迎え、分譲住宅ブランド「LEAFIA/リーフィア」は、お客様への住まいの提供を通じて「重ねる時を心豊かに」を実現できることをミッションとしており、戸建て・マンション企画グループに共通して住む場所を提供するだけでなく住まいが生活をより豊かにすることを目指しています。
―――デコムにご相談いただいた当時、どのような課題を抱えていたのでしょうか?
開発企画部・戸建企画グループリーダー 本橋様
本橋:私たちは2018年から、よりダイレクトに生活者の声に寄り添う「想いカタチ.ファクトリー」という住まいの新商品開発プロジェクトに取り組んでいました。近年の共働き世帯の増加の一方で、ちょうどこの頃はコロナ禍であったり、戦争によるサプライチェーンの混乱やその後の物価上昇など目まぐるしく社会情勢が変わっていった時期でもありました。
当時はお客様に直接アンケートを取ることでお客様のなかで認識されている、顕在化された問題を把握して、解決方法を検討していました。しかし、コロナ禍などで顧客の価値観が急激に変化していることや、より一層多様化していることを感じ、従来のリサーチ方法では対応しきれない部分が出てきたため、インサイトリサーチに興味を持つようになりました。
インサイトから実効性の高いアイデアを再現性の高い形で生み出せると思った
―――デコムにご相談いただいたきっかけを教えてください。
本橋:マーケティング関連の書籍やWebで情報収集をする中で「インサイトリサーチ」という考え方に興味を持ちました。これまでの商品開発はアンケート結果やワークショップを起点に進めてきましたが、顧客の無意識の欲求や感情的な部分までは捉えきれていませんでした。今回、デコムさんのノウハウを活かしたインサイトリサーチを行えば、しっかりとインサイトを深掘りして課題を見つけていくことができるかもしれないと思いました。
本橋:また、デコムさんの「声なき声を形に」という企業パーパスがまさに私たちが求めているものでした。さらにインサイトリサーチやプロジェクトの企画提案を伺って感覚的なインサイトの発見方法ではなくて、論理的に体系立てたインサイトを見つけるメソッドに可能性を感じました。
これまでの進め方では、生活者とワークショップを開催してこちらのアイデアに対しコメントを直接もらうようなやり方もしていましたが、印象深いコメントに結果が影響される懸念がありました。デコムさんのお話を聞いて、顧客が無意識に求めているものを深く探り当てられ、実効性の高いアイデアを再現性が高い形で生み出せると思いました。
無数にある「暮らしに求めていること」から、小田急不動産としての住まいのインサイトを探索していく
―――デコムのインサイトリサーチを採用した決め手は何でしたでしょうか。
本橋:本質的に「住まい」に何が求められているのだろうか?というところから知りたいという目的が一番にありました。インサイトは常に我々の暮らしの中にあり、無数に存在しているものだと思います。一方で、分析したインサイトが住まい選びの際にお客様に響くものかわからない中で、有益なインサイトを発見するためには、デコムさんのノウハウが必要だと感じました。
住まいの近視眼を離れて、暮らしの情緒を起点にした企画・開発を進めていくため
―――デコムの伴走支援における印象や感想をお伺いさせて下さい。
本橋:職業柄なのですが、「暮らし」における新しい価値を見出しても、どうしても「住宅」にどのように活かせるだろうかと考えてしまっていた部分がありました。n=1の面白そうなデータを見る時もどのようにしたら住まいにつながるだろうかというふうに考えてしまっていましたが、デコムさんが口酸っぱく修正してくれましたね。
開発企画部・マンション企画グループ 森脇様(右)
本橋:具体的には、近視眼的にハコとしての「住宅」ばかりに目が行きがちなところを、n=1を通して「住まい・暮らし」に対し本質的に何が求められているのか?を大局的に気づくことができたと思います。そのためにはインサイトリサーチの力が必要だと痛感しました。
例えば、家の中でどのようなマインドでいたいのか?とか、家がどうしてくれたら嬉しいのか?とか、そういったことを分析しようとすると、従来の調査で行っていた利便性や不満解消の視点だけでは限界があったなと感じます。
森脇:実際に今の生活者が暮らしに求めている価値を探索するオポチュニティセッションに参加した時は、いつもとは異なる思考回路が必要で脳みそを使い果たした感じでした(笑) 普段私たちは、n=1に注目するよりも、どちらかというと万人受けの部分に着目していました。ですので、一人に刺さるn=1のところに目を向ける必要がありました。洞察するメンバーによって着眼点が違うところも興味深いなと感じました。
本橋:振り返ってみると、暮らしにおける利便性などはニーズを分析する上でわかりやすい尺度でしたが、感情をベースに動いている結果のように見えて、実は意外とそうではないということもあったりしました。ですので、インサイトリサーチを用いることでより深い情緒を起点にした企画を立案でき、我々が提供する商品がお客様の感情を動かすものになっていくのではないかと感じています。
不動産から離れ、「暮らし」に求めていることからリサーチ(探索)を進めていった
―――デコム側の伴走支援において大切にしたポイントを教えて下さい。
デコム:プロジェクトデザイナー 手塚
手塚:今回のプロジェクトにおいて重要なポイントは、「戸建て」や「マンション」といった小田急不動産様の事業領域を直接見に行くのではなく、今どきの生活者が求める、あるいはまだ充たされていない「暮らし」「住宅」とはなにか、仮説の仮説から探索することを行いました。具体的には、まずデスクリサーチで収集した生活者のマイクロトレンドといったn=1情報を手がかりに機会領域を明らかにするオポチュニティ発見セッションを行い、有望そうな機会領域を発見しました。その上でインサイトリサーチを実施しました。
生活者が求める住まい価値を広く探索した上で、小田急不動産の戸建て住宅/マンションの商品開発につなげる、というプロセスが大きなポイントだったかと思います。デスクリサーチ時には小田急線沿線に関するマイクロトレンド事象なども集めたのですが、セッションを通してこのエリアや沿線文化が持つ固有の機会領域なども見えてきました。
デコム:プロジェクトデザイナー 大塚
大塚:マイクロトレンドやn=1事象などの具体的な情報がたくさんあるからこそ、抽象的な捉え方がしやすかったのかなと思います。そして抽象的な価値や仮説からもう一度具体的な商品の形に戻すという、具体→抽象→具体の流れをしっかり実践できていたところが良かったと思います。
インサイトリサーチを通じてn=1の解像度を上げていくと、たとえば「少子高齢化社会」という話がさらにブレイクダウンされた社会課題として見えてくるんですよね。n=1を見にいくことで、一見大きな社会課題が「小田急不動産様が解決できる社会課題」にブレイクダウンされてくる、ということが大きなポイントかなと思います。
手塚:プロジェクトを振り返ると小田急不動産の皆様はすごくn=1の情報に対して面白がってインサイトを探しておられたことが印象的でした。セッションで意見を出し合う場においても、小田急不動産様側の皆様で共感していたりすごく良い話し合いをされていたなと感じました。納得感をもってn=1の情報に向き合っておられたからかなと感じています。セッションで導き出したインサイトのアウトプットは非常にセンスがよくクオリティが高いと感じました。
n=1やユニークなエピソードに対して抵抗がなくなり、情緒的な洞察をする癖がついていった
―――インサイトリサーチの最終報告に対する所感、気づきがありましたら教えてください。
本橋:最終的に4つのキーインサイトとバリューをまとめていただいたのですが、有望なインサイトの核心をつき一言でまとめ上げるのは高度な技術が必要だと感じました。どんな住宅が求められているか、端的でありつつ、感情を揺さぶる具体的なイメージに昇華できるというのはインサイトリサーチならではだと思いました。
―――インサイトリサーチを通して本橋様、森脇様ご自身のなかでどのような変化が生じたのかお聞かせください。
本橋:表面的な部分ではなく心理的・情緒的な部分を考えるという癖がセッションを通じて生まれたかなというふうに思います。
森脇:n=1に対する抵抗がなくなった、というのが一番大きいです。一見自分の業務とは関わりが無さそうなことでも、どこかで自分の業務につながることがあるのではないかと自分の中のアンテナが広がった気がします。
インサイトを起点とした新しい商品開発や企画プロセスを実行している
―――インサイトリサーチを通して、他の部署の方や会社全体でどのような変化が起こったと考えていますか?
本橋:部内ではインサイトの考え方が浸透したなという手応えはあります。ある商品が開発された時にどのような経緯で開発されたかなどもオープンにしていますので、今後より浸透していくのではと思います。これまでと全く違う取り組み、プロセスなので組織内でも興味を持ってもらえるのではと期待しています。
―――今回のプロジェクトで感じた手応えや結びついたアウトプットについて教えてください。
本橋:デコムさんと取り組んだ調査結果の幾つかの方向性の中の1つに『アクティブに、暮らしを拡げる』という方向性があるのですが、そちらをテーマに「Life Jump(ライフジャンプ ) 」という企画を立ち上げました。リサーチ結果をもとに、外部の建築家と一緒に建築的アプローチで感情を揺さぶるアイデアを導出しました。
森脇:私は「Life Jump」で開発したアイデアのひとつを自分の担当物件にとり入れました。この物件をお客様にご案内するにあたり、私たちから販売担当者に物件の魅力を伝えるのですが、アイデアの魅力に関して自分がすごく語れそうな気がしており、自信を持ってアピールできるアイデアになったと感じています。
また、お客様が見たこともない商品を紹介するときには、お客様自身もその価値が計れない状況であることがほとんどです。その際にどのような感情の流れがあってこの商品が生まれたのか、納得感を持って話していけるなと感じています。
プロジェクトを通じて社内の共通言語組成や人材育成を進めていきたい
―――今後、デコムに期待することや、インサイトリサーチをどのように活用していきたいか教えてください。
本橋:マーケティングにおけるn=1リサーチやインサイト発掘の考え方などは普段の仕事の中で活かせるということを部門外にも伝えて人材育成していけたらと考えています。世代などによって考え方が違ったり視点が違ったりすることもあるので、社員間でインサイト理解や共通言語が生まれるようにインサイトを活用していきたいです。
―――本日はありがとうございました。今後ともぜひよろしくお願いします。