インサイト分析が注目されている背景
1980年代以降、技術の進化と共に市場には沢山の商品があふれ、私たちはほとんどの欲求を満たせる時代となりました。明らかな不満や不便は解決されて、何となく充たされているこの状態をデコムでは「だいたい、いいんじゃないですか時代」と呼んでいますが、そういった時代に突入しています。そんな時代において、消費者に「どういったものが欲しいのですか?」「なぜそれを選んだのですか?」と聞いても、消費者自身も良く分かっておらず上手く表現できなかったり、明確な回答が得られないことも少なくありません。このような背景から、「人々が説明することのできない隠れた欲求」=「インサイト」に注目する必要性が高まってきました。
インサイトとは
インサイトの意味と定義
マーケティングにおけるインサイトとは、購買行動の根柢にある消費者本人も気付いていない隠れた欲求のことを指します。ひとことで言うと、『顧客を動かす隠れた心理』です。一般的には顧客インサイトや消費者インサイトと言われており、このインサイトを正確に捉えることでより消費者の心に響く商品やメッセージを届けることが可能だとされています。
インサイトとニーズの違い
インサイトとよく混同されるものにニーズがあります。ニーズは消費者自身でも認識できたり、質問することで引き出せるような言語化可能な欲求や需要を指します。例えば、「低価格なものが欲しい」や「便利なものが欲しい」といったもので、アンケートやインタビューでも直接引き出すことができます。一方で、インサイトとは消費者自身も気付いておらず、言葉にはできないけれども、何となく心の奥に潜んでいる無意識な欲求です。人間の行動の90%が無意識に行われているとも言われており、こうしたインサイトを捉えることがマーケティングで大きな成功を収める為に重要な役割をはたします。
インサイト分析を行うメリット
独自性の高い商品・サービス開発
現在、市場には消費者のニーズに応えた商品があふれかえっており、どのサービスや商品をとっても大差がないという状況です。そこでインサイトを捉えた商品・サービスを開発することができれば、新たな価値提案へと繋がり、他社にはない独自性の高い商品を生み出すことができます。このような独自性の高い商品・サービスは市場での競争力も高く、消費者の支持も得やすくなります。
的を得たマーケティング施策
上記で説明した通り、人間の行動の90%は無意識に行われると言われています。インサイトを用いて考えることで、消費者の無意識にも響く商品やメッセージを届けることができ、より効果的で深い共感を呼ぶマーケティング施策を行うことができます。通常のニーズ分析では、消費者が自覚している欲求に基づいた施策を行うことになりますが、それでは表面上の欲求に応えるだけにとどまり、必ずしも消費者が「本当に欲しい」という欲求に応えるものになっているとは言い切れないのです。
新規顧客の獲得
インサイトを明らかにすることは、新たな需要を生み出すきっかけとなります。インサイトによって消費者よりも先回りして、欲しい商品やサービスを提供してあげることで、今まで接点すらなかったような顧客までも自身のカテゴリに興味を持ってもらうことが可能になるかもしれません。このようにインサイト分析は新規顧客を獲得し、事業を拡大するための有力な手段となり得ます。
インサイト分析の方法
データの収集
マーケティングリサーチにおけるデータには大きく定量データと定性データが存在していますが、その中でも人間を深く洞察するインサイトリサーチにおいては定性データが有効とされています。
定性データの主な獲得方法は以下の3つです。
・インタビュー調査
インタビュー調査は大きく分けて1対1で行うデプスインタビューと、1対多数で行うグループインタビューに分けられます。中でもインサイト分析におけるデータ収集の方法としては、個人の生活態度や思考、これまでの経験など深いところまで聞き出すことができるデプスインタビューが最適だと言われています。
・行動観察
行動観察とは売り場や消費者の個人宅などに行って、実際の行動を観察することです。消費者が言葉で表現することができないことや忘れてしまっていること、また無意識にしていることなど、言葉では語られない多くの情報を得ることができます。分析を行う際は行動の裏にある心理を読み解く必要がありますが、観察だけでは分からないことも多く、インタビュー調査と合わせて行われることが多い手法です。
・ソーシャルリスニング
SNSやブログ、掲示板などに集まる情報や自社で運営するオンラインコミュニティに集まる情報を収集する方法です。アンケートやインタビューとは異なり、生活者の自由な発言を拾うため、制限のないリアルな声を集めることができます。
データの分析
定量的なデータの場合、集めたデータは統計分析やデータマイニングを利用して特徴や傾向をつかみます。一方で定性的なデータの場合は、テーマ分析や感情分析などを用いて、数字では表すことのできない情報を分析していきます。いずれにしても表層的な内容にとどまらず、その背景に隠れている消費者の心理を読み取ることが大切です。また、デコムではデータ分析において導き出すインサイトをシーン・ドライバー・エモーション・バックグラウンドの4要素でとらえています。それぞれの意味は以下の通りです。
- エモーション:感情や気分
- シーン:エモーションが生まれた場面。行動や状態を伴う。
- ドライバー:エモーションを生み出すこととなった直接的な原因
- バックグラウンド:情緒が価値(または不満、未充足)である直接的な要因
この4つの要素でとらえることによってインサイトの客観性を保つことも大切にしています。
インサイト分析のポイント
ポイント①言葉を鵜吞みにしない
インサイトを捉えるために、消費者に直接行動の理由や背景を聞いても表面的な理解で終わることがほとんどです。正しくインサイトを捉えるためには、あくまでも本人の言葉はヒントにしかならないことを理解した上で分析に取り組むことが重要となります。言葉をヒントに隠れた真の動機を探ってみましょう。
ポイント②非合理性に着目する
行動経済学では、感情などの影響を受け人間は必ずしも合理的な判断に基づいた行動を行うわけではないとしています。例えば、これまでかけてきたコストに意識が向く「サンクコスト効果」や、損をしたくないという気持ちで行動する「プロスペクト理論」など非合理的な行動をするとされる理論は数多くあります。このような人間の非合理的な側面にも目を向けながら、分析していくことでより深い洞察を得ることができます。
ポイント③デビル欲求
デコムではインサイトを捉える際、「ホンネ」と「タテマエ」に表現される人の「ホンネ」の部分、つまり「正しさ」や「善」の裏に隠れたドロドロとした欲求のことをデビル欲求とよび、分析の着目ポイントととして大切にしています。ついつい隠したくなるような醜さや悪の側面、汚い部分にも焦点をあて、両面から人間を捉えることでより立体的に理解することができます。
インサイト成功事例
成功事例①マクドナルド「クオーターパウンダー」
マクドナルドは業績不振に陥っていたころ、消費者アンケートを行いサラダマックを導入しました。アンケートでは「ヘルシーなメニューが欲しい」や「野菜たっぷりメニューがよい」というような声が多く集まったため「サラダマック」の導入に至ったのですが、消費者の声に応えたにも関わらず「サラダマック」の売れ行きは期待以下になり、短期間で販売終了となりました。そこで改めて検討しなおしてみたところ、そういった健康志向の方ほど、むしろ心の奥では分厚くて食べ応えのあるハンバーガーをがっつり食べたいという気持ちが強いのではないかというインサイトを発見しました。そこで肉感たっぷりの「クオーターパウンダー」を発売したところ、それが大ヒットし成功を収めることとなりました。
成功事例②ベネッセコーポレーション「こどもちゃれんじ」
0歳児から6歳児の幼児向けの通信教材「こどもちゃれんじ」では当時、新規のお客様の獲得に伸び悩んでいました。その状況を改善するため、お客様にインタビューやアンケート を行っていたのですが、入会しない理由として、「値段が高いから」「物が増えるので嫌だから」という意見がいつも上位にきていました。しかし「安くなって、ものが増えなければ購入しますか?」と聞いてみても「そういう事でもない…」とパッとした返事が返ってきません。そこで、デコムでもご支援させていただきながらインサイト調査を行ったところ、育児において「閉塞的でチマチマした日々に、さらにチマチマした教材が送られてくるのは、まっぴらごめんだ」というインサイトが発見されました。このインサイトに基づいたコミュニケーション改善やビジュアル刷新をしたところ、新規会員数を延ばすことができ、また既存会員の維持にも寄与することができました。
まとめ
ここまでお伝えしてきた通り、インサイト分析で消費者の無意識な欲求を捉えることは、商品開発やマーケティング施策の効果を高めるためにとても重要なポイントとなります。消費者とじっくり向き合い、未来の可能性を広げられるようなインサイト探しにチャレンジしてみましょう!
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