「顧客の声をどう活かすか」
多くの企業が抱える課題であり、その答えとなり得るものが「CS調査(顧客満足度調査)」です。本記事では、CS調査の基本から実践的な活用方法、具体的な事例までを解説します。マーケティングや顧客対応の改善を目指す方にとって、実践のヒントとなるようにまとめました。
CS調査とは?
CS(Customer Satisfaction)調査とは、顧客が商品やサービスにどの程度満足しているかを数値や意見で把握するための調査です。購入後の体験を振り返ってもらい、改善点や強みを明らかにするのが目的です。
CS調査の主な効果
CS調査による主な効果は以下の通りです。
- 顧客の不満を早期に把握できる:CS調査を通じて、顧客が感じている不満や課題を早期に発見できます。問題が大きくなる前に対処することで、クレームや顧客離れを防げます。
- 再購入・継続利用の促進につながる:満足度の高い顧客は再購入や継続利用の可能性が高くなります。CS調査を活用して満足度を高めることが、LTV(顧客生涯価値)の向上につながります。
- 商品やサービスの改善に直接反映できる:顧客の具体的な声をもとに、商品やサービスの改善ポイントが明確になります。実際のニーズに合った改善が可能となり、競争力強化にも貢献します。
- 従業員の対応品質の評価にも役立つ:接客やサポートに関する評価項目を設けることで、従業員の対応品質を数値化できます。教育や人事評価の材料としても活用できます。
他の調査(NPS、CXなど)との違い
CS調査以外にも以下のような指標や調査方法があります。
- NPS(ネット・プロモーター・スコア):推奨度に特化し、顧客のロイヤルティを測る指標。0〜10点のスコアで「推奨者」「中立者」「批判者」に分類し、顧客の支持度合いを把握できます。
- CX(カスタマー・エクスペリエンス)調査:顧客体験全体を定性的に捉える調査。購買前・中・後の体験を通じた感情や印象を調べ、ブランド価値の向上に役立てます。
CS調査の主な手法
ここではCS調査の手法について説明します。CS調査は主に以下のような手法で行われます。
定量調査と定性調査
- 定量調査:数値データ(5段階評価など)を取得。大規模・傾向分析に有効。分析結果をグラフや指標として可視化しやすく、部門間での共有や比較にも適しています。
- 定性調査:自由記述やインタビュー。深掘りや感情の理解に向いている。顧客の言葉から真のニーズや潜在的な不満を発見するのに効果的です。
また、多くの企業は両者を組み合わせて調査を行っています。
データ収集と集計方法
- Webアンケート(メール、QRコードなど): オンライン上で手軽に実施でき、広範囲かつスピーディにデータを収集できます。自動集計機能付きのツールを使えば分析も効率的です。
- 店頭調査(紙・タブレット):来店顧客に対してリアルタイムで意見を聞けるため、体験直後の率直な声が得られます。高齢層やネット非対応層にも有効です。
- 電話・対面インタビュー:対話形式で詳細な情報を引き出せるため、顧客の本音や背景にある理由を深く掘り下げられます。BtoBや高関与商材に適しています。
収集後は、ExcelやBIツール(Tableau、Google Data Studioなど)で集計・可視化することで分析・改善に繋げます。
アンケートの設計と質問例
アンケートは、適切な設問設計が調査の成否を分けるといっても過言ではありません。以下は主な質問の例です。
- 「当社のサービスにどの程度満足していますか?(5段階)」
- 「他者にこの商品を勧めたいと思いますか?(NPS形式)」
- 「改善してほしい点があればご記入ください(自由記述)」
分析・改善のステップ
CS調査は行って終わりではなく、得たデータを元に、分析・改善を行ってこそ有効になります。主な方法は以下の通りです。
データの分析手法
- クロス集計:年齢別、地域別などの傾向分析。複数の属性(例:性別×年代、店舗×満足度)を組み合わせて分析することで、特定の層における傾向や課題を明らかにします。
- 時系列比較:過去データと比較して改善の成果を確認。同じ項目を継続的に測定し、時間の経過による変化を分析します。
- セグメント分析:ロイヤル顧客 vs 離反予備軍などを分類し対策を検討。顧客を満足度や利用頻度などでグループ分けし、それぞれに最適な対応策を設計します。
他部門との連携
CS調査の結果は、単にマーケティング部門や広報部門だけで扱うのではなく、全社的な改善活動に活かすことが重要です。具体的には、以下のように各部門と連携することで、調査結果が具体的な改善施策へとつながり、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
商品開発部門:顧客から寄せられた「使いづらい」「ここが惜しい」といった声をもとに、既存商品の改良や新商品開発に反映します。
営業部門:満足度の高い顧客の特徴や、離脱しそうな顧客の傾向を把握することで、クロージングの質向上やフォローアップ施策の強化が可能になります。
カスタマーサポート部門:問い合わせ対応やクレーム処理の満足度を測ることで、対応フローや言葉遣いの改善点が見えてきます。
経営層:経営判断においても、定量・定性データに基づく顧客の声は極めて重要です。満足度の推移やNPSスコアの変化をKPIの一つとして定例会議で確認する企業も増えています。
自社での導入に向けたステップ
CS調査の手法や分析・改善について一通り説明したところで、次は実際に導入を行ってみましょう。例えば以下のようなステップを踏んで導入するとスムーズに進みますよ。
目的設定とKPIの明確化
調査の目的が曖昧だと、成果につながる分析が難しくなります。「サービス品質の評価」「店舗別の顧客満足度比較」「新サービスの初期反応測定」など、目的によって調査の設計が大きく変わるからです。また、CSスコア(Customer Satisfaction Score)やNPS(Net Promoter Score)などの定量KPIを設定することで、継続的なモニタリングが可能になります。
対象顧客と調査設計のポイント
誰に対して・どんな内容を聞くかを明確にすることが重要です。新規顧客、既存顧客、休眠顧客など、属性によって設問内容や送付タイミングを変えることで、より適切なデータが得られます。また、回答率を高めるには「3〜5問+自由記述」など、短く簡潔な設計が効果的です。
社内の巻き込み方
調査は全社的な活動として推進しないと、活用が進みません。トップの理解と支援を得ることで、調査の重要性が社内に浸透します。さらに、各部門が「自分ごと」として捉えられるよう、部門別の分析や成果共有を行う工夫が必要です。初回は小規模に始め、成功体験を積み重ねて全社展開を目指しましょう。
ツール・外部パートナーの活用
目的や規模に応じて、最適なツールや支援を選ぶことが成功の鍵です。GoogleフォームやLINEアンケートなどは低コスト・短期間での実施に適しています。一方、定期的な大規模調査や高精度な分析を求める場合は、外部リサーチ会社のノウハウを活用するのも有効なので、上司に相談し、選択肢の一つとしておくと良いでしょう。
よくある失敗とその対策
ここではCS調査にて起こりやすい失敗と、その対策について説明します。CS調査を「やりっぱなし」にせず、成果につなげるための実践ポイントは以下の通りです。
回答が集まらない、活用されない
多くの企業が直面する課題です。調査の設計・配信方法・社内活用の工夫が重要です。
- 回答しやすいタイミングでの配信
例えば「商品購入後3日以内」「サポート対応直後」など、顧客の記憶が鮮明なうちに送付することで、回答率が大きく向上します。 - インセンティブの提供
アンケート回答者にポイントや割引クーポンを提供することで、参加のハードルを下げられます。インセンティブの金額や内容は、対象顧客層に応じて調整するのがコツです。 - 結果を“見える化”して共有
調査結果を社内レポートにとどめず、社外(例:Webサイト、SNS、店頭)での共有も効果的です。「あなたの声がサービスに反映されました」と伝えることで、次回以降の回答モチベーションも高まります。
アクションにつながらない
分析して終わりではなく、「具体的に何を変えるのか」に踏み込む体制づくりが必要です。
- 改善施策と検証までをワンセットに
例えば「サポート対応への不満が多い」という調査結果が出た場合、「FAQの見直し」「チャット対応の強化」など、明確なアクションプランと期限を設定します。 - 担当部署・責任者を明確にする
改善案があっても、誰が実行するのかが不明確なままでは形になりません。担当部門と責任者を明記し、進捗を定例会議で確認する体制を整えましょう。 - スモールスタートで成果を実感させる
大規模な改善よりも、まずは一部機能や一店舗などで試験導入し、効果が出た事例を共有することで社内の巻き込みが進みやすくなります。
PDCAを回すための運用ルールと体制
CS調査を継続的に活用するには、「運用の型」を作ることが欠かせません。
- 定期的な調査実施とレビュー
月次・四半期など、事業フェーズに応じた頻度で定期的に調査を実施し、結果を必ずレビューする文化を根付かせます。 - プロセスを明文化・仕組み化する
「調査設計→実施→分析→共有→施策立案→改善実行→再評価」というPDCAサイクルをフローとして文書化し、各ステップの責任部門を明確にしておくと、属人化を防げます。 - BIツールやダッシュボードでの可視化
KPIやCSスコアの変化をリアルタイムで見られるダッシュボードを導入すれば、全社で同じ数字を見て動ける体制が作れます。
CS調査の事例
以下は業種別にCS調査がどのように実践され、ビジネス成果に結びついているかを説明したものです。自社に近しい事例を参考にしてお読みください。
例1:小売業(アパレルチェーン)
課題:複数店舗でレジ対応に関するクレームが散発的に発生しており、顧客満足度にばらつきがあった。
取り組み:月次で全店舗のCSアンケートを実施し、「接客の丁寧さ」「会計スピード」などを5段階で評価。自由記述で不満点も収集。
分析と改善:満足度の低い店舗を特定し、店舗別の研修内容とトレーナー派遣を強化。特に評価の低かった「笑顔での対応」「説明の分かりやすさ」に重点を置いた。
成果:翌月からクレーム件数が減少し、該当店舗のリピート率が上昇。本部ではこの改善手法を全店舗に横展開する体制を整備。
例2:サービス業(回転寿司チェーン)
課題:新規出店店舗の売上が伸び悩み、顧客離脱の要因が不明瞭だった。
取り組み:各テーブルに設置された注文用タブレットに、食事後に表示される「3問アンケート」を導入(注文のスムーズさ、店内清潔感、再来店意向)。
分析と改善:特に「店内の清掃状態」と「スタッフの反応速度」に不満が集中。清掃チェックリストとスタッフ配置の見直しを即座に実施。
成果:改善施策後は客単価・再来店率が向上し、特に平日の売上がアップし、アンケート回答数も増加。
例3:SaaS企業
課題:新規ユーザーの解約率(チャーン)が高く、特に導入初期での離脱が目立っていた。
取り組み:ユーザー登録から30日後に送信される自動アンケートで、「使いやすさ」「機能の理解度」「ヘルプの充実度」などを質問。
分析と改善:多くのユーザーから「初期設定が分かりづらい」「用語が専門的すぎる」という声が集まった。UI/UXデザインチームがダッシュボードを全面刷新し、チュートリアル動画も追加。
成果:リニューアル後、オンボーディング完了率が上がり、チャーン率も改善。NPSスコアも大きく上昇し、顧客紹介経由の契約が増加した。
まとめ
CS調査は、単なる「顧客満足度を数値で測る手段」にとどまりません。顧客の声を可視化し、それを根拠に組織全体を動かすための“経営資源”です。
特に重要なのは、小さな取り組みから始めて、実行と検証を繰り返しながら社内に定着させていくことです。また、CS調査の効果を最大化するには、「定期的に振り返る」「他部門と連携する」「改善までを一貫して行う」というPDCAの徹底が不可欠です。顧客起点での継続的な改善文化を醸成することが、真の成果を生む鍵になるからです。
企業の成長は、顧客の理解と信頼なしには成り立ちません。だからこそ、CS調査を「現場の手間」ではなく「経営の羅針盤」として捉え、継続的に磨き、活用することがこれからのマーケティングや経営においてますます重要となっていくでしょう。
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