株式会社ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)は、「Benesse=よく生きる」という企業理念のもと、教育、生活分野でお客様一人ひとりの意欲向上と課題解決を一生涯にわたって支援しています。
ベネッセでは、世界7,700万人が学ぶオンライン動画学習プラットフォーム「Udemy」※を中心に、社会人向け教育事業を展開しています。書籍『何から始めればいいかがわかる 最高の学び方』の出版に際し、リスキリングに関する生活者理解を目的として、デコムのインサイトリサーチを導入いただきました。
本インタビューでは、インサイトリサーチを採用した理由や背景にあった課題感、さらに調査結果や報告書に基づく広報活動、社内外での活用や反響について、社会人事業本部の土屋様と作田様にお話を伺いました。
「大人が可能性と生きていく社会へ。」をビジョンに、オンライン動画学習プラットフォーム「Udemy」を国内展開、社会人向けのリスキリングをサポートしている
ーー先ずはベネッセコーポレーション様と、社会人教育事業について教えていただけたらと思います。
社会人事業本部 作田様
作田:「Benesse」は、ラテン語の「bene(良い、正しい)」と「esse(生きる)」を一語にした造語で、「よく生きる」という企業理念を大切にしています。教育だけでなく、生活の分野にも関わり、人々の成長に生涯寄り添い続けることを支援する企業です。
私たちの事業部では「大人が可能性と生きていく社会へ。」というビジョンを掲げ、オンライン動画学習プラットフォーム「Udemy」を中心に、社会人の方々の学習支援を行っています。
実はこちらのビジョン、昨年3月に新しくなったのですが、これまで掲げていた「最終学歴以上に、最新学習歴を誇れる社会の実現」というビジョンをアップデートし、より人々の人生全体を支援していきたいという私たちの姿勢を表したものになっています。
土屋:「Udemy」は、2015年に米国のUdemy社とベネッセの間で、包括的業務提携契約を締結したことから、日本国内でのサービス展開を開始しました。最初はCtoCの個人向けサービスのみの展開でしたが、その後、2019年から法人向けサービスである「Udemy Business」を展開し、2020年からは自治体向けの人材育成プログラムも開始しました。現在では、幅広く社会人向けの学びを支援しています。
ーーーー業務内容についてお伺いさせていただけますでしょうか。
土屋:社会人教育事業の広報担当として、メディア向けの発表やブランディング、調査やイベント企画など、様々な業務を行っています。
取り組みのきっかけはインサイトフル研修から。共感を生むコミュニケーションを推進するために、学びにおけるn=1の生活者の本音を捉えていく必要があった。
ーーデコムにご相談いただいたきっかけや、その当時の社会人教育事業でどのような悩みがあったかを振り返ってお聞かせください。
作田:まずデコムさんを知ったきっかけは、会社内でインサイトフル研修があったことです。面白そうだと思い、何となく参加したのが始まりです。研修が終わった後、事業部の皆さんに研修内容を共有したところ、多くの方に興味をもっていただきました。
ベネッセではもちろん、社会人教育事業でも定量的な調査を中心に学びに関するデータは豊富にあります。しかし、自分たちで仮説を立て、選択肢を作り、その調査について回答していただくということは、私たちのバイアスがかかっているのではないかという感覚がありました。「本当に世の中の人々の声を拾えているのだろうか?」という課題感を抱えていました。
土屋:例えば、リスキリングという言葉がどのくらい知名度が上がっているのか、定量的な調査で傾向を見ることも重要だと考えています。一方でn=1の解像度、つまり「個人を深く理解すること」が必要だとも感じていましたし、生活者とのコミュニケーションを推進していく広報という立場ではその点にまだ伸びしろがあると感じていました。私たちは記者に記事を書いていただく広報担当であり、共感が非常に大切だと感じています。大人の学びはみんながやった方がいいことだと思ってはいても、そのままでは共感を呼び起こすことはできません。そこで、人を深く理解できるデータをしっかり取って、それを基に施策を考えたいと思っています。ただ、自分が一般生活者の立場として共感できるようなデータが今までは揃っていませんでした。
社会人事業本部 土屋様
「学び」「リスキリング」に潜在的に求めていることを理解する、共感を呼ぶアイデア開発につながるインサイト発見を目的にプロジェクトをスタートした
土屋:そのとき、作田がデコムさんのインサイトフル研修を受けて「これ面白かったですよ」と言われ、実際に資料を見るととても面白そうだと感じました。それでデコムさんから具体的にお話を伺いしました。
一般生活者が「学び」「リスキリング」に潜在的に求めていることを理解することが、今後のプロモーションやコンテンツアイデア開発につながると感じたので、リサーチを依頼しようと決めました。
ーーデコムとプロジェクトに取り組んだ際の率直な感想や、先ほど面白いとおっしゃっていただいたことをもう少し詳しくお伺いできればと思います。
作田:デコムさんの調査手法や支援事例については、インサイトフル研修を通して事前に知っていましたが、独自の文章完成法を取り入れた調査スタイルや、非常に多岐にわたるリサーチテーマ(*)は、これまで事業部として行った調査にはなかった新しい手法だと感じました。
デコムさんと一緒にテーマを考える際は非常に大変でしたが、様々な角度からリサーチテーマを設定することで、一般的な定性調査で質問されても出てきづらいような具体的なエピソードまで引き出すことができ、とても面白いと感じました。
*リサーチテーマ
プロジェクトのテーマ領域に関連して、どんな体験エピソードがあったのか、調査対象者に回答を促す体験テーマ設定のこと。
土屋:回答者のポジティブなエピソードから相対的に不満や未充足を捉えていくことが、すごいなと思いました。確かに「どうですか?」って聞かれて、パッて出てきたものが本音かどうか分からないと思います。事業部としては初めての調査でしたが、私たちが求めている一般生活者の学びに対するアンメットニーズが分かり、これが自分たちが求めていた調査だったと思いました。
「リスキリング」という言葉の定義をどうするか、「学び」について誰のどのような行動や体験を調査していくのか?ベネッセコーポレーション様と共にリサーチデザインを行い、根底にある本音を捉えにいった
ーーありがとうございます。では、今いただいた内容も踏まえて、今度はデコム側からお話させていただきます。デコム側で提案にあたって、大切にしたポイントを教えて下さい。
手塚:ベネッセ様とはデコムの黎明期からのお付き合いだと思うのですが、私自身、リスキリングに関する生活者理解という大きな社会課題をひも解くのは非常に面白そうだなという気概を持って取り組ませていただきました。
リサーチのプロセスや設計から申しますと、私たちからリサーチデザイン(*)を決め打ちしてお出しする、それでうまくいく場合もあるのですが、課題感や、仮説の仮説といった捉え方にクライアント様との間でずれが生じてしまうこともあります。ですので、「リスキリング」という定義にしても、どういった内容にしましょうか、というところをまず検討しました。
*リサーチデザイン
クライアント様の課題感に関連して、生活者のどんな価値や不満・未充足を明らかにすべきなのかを目的とした調査設計のこと
デコム プロジェクトデザイナー 手塚
手塚:そこでプロジェクトの最初のステップを「ソフトリサーチ」という形から進めることにしました。リスキリングに関連したマイクロトレンドなどの情報を収集し、「リスキリング」の定義や、リサーチテーマの討議を行いました。
現在デコムのプロジェクトのメニューにもなっている「リサーチデザイン」は、実はベネッセ様のこのプロジェクトが初めての試みでもあったんです。
倉部:リサーチテーマの設定にあたって、通常の消費材であれば商品を消費するモーメントがあると思うんですけれど、リスキリングに関してはその学びが人生の全体にどう携わっていくかという視点があります。学びのきっかけになる心の動きもあれば、学びの最中に得る成長の感覚、またその知識やスキルによって自分の人生にどんな視座を得たか、大きなストーリーの中での様々なモーメントを捉える必要があると感じていました。
デコム インサイトリサーチャー 倉部
倉部:今回の回答の中では、リサーチテーマによって幅広い回答が得られ、単なる目の前の学びの達成感だけでなく、それぞれの世代がどのような人生のビジョンを得ているのかという様々な視座を得られたことは大きな発見となりました。
例えば、ミドル・シニア層の学びへの関心の低さが調査で課題として抽出され、翌年この層を掘り下げる調査をさせていただきましたが、リスキリングにかかわらず、この層でみられる停滞感は社会的な課題でもあると実感しています。
杉山:今回のご依頼の背景として、国がリスキリングというものを推進する中で、ベネッセ様もリスキリングを通じたキャリア支援事業に取り組まれているかと思います。一方で、「笛吹けど踊らず」というか、リスキリングそのものが生活者の共感を得られておらず、市場全体におけるリスキリング関連サービスの利用者も伸び悩んでいるというところが課題としてあったかなと思います。
デコム インサイトリサーチャー杉山
杉山:そこでリサーチを通じて、「なぜ人はリスキリングをやらないのか?」「どのようなリスキリングならやろうと思えるのか?」その本音の本音の部分を明らかにする必要がありました。その為に、人間が学びを避けてしまう時の弱さだったり、コンプレックスだったり、リスキリングについての根深い部分の不満を紐解きにいったことが、今回の調査設計上で注意したポイントだったかなと思います。
その人の人生が文章から伝わってくる、心を許した友達にしか話さないようなリアルなエピソードに共感
ーー調査結果をご覧頂いた際の率直な感想や、他の調査と比較したときに、よりポジティブに思えそうだなと感じたところがございましたら伺わせて下さい。
作田:ローデータ上で見られた生の声というのは、すごくリアルだなと思いましたし、社内のメンバーもしみじみと感じ入っていました。
「なんでリスキリングやらないの?」と聞いたときに、これまでの調査では「時間がない」「お金がない」「やる気がない」といった回答が多くなる傾向があったのですが、そういう調査では引き出せないような、もっと深い本音見えました。
本音というのは、その人の人生が見える部分だと思います。その人がどんな時に勉強をして、それがどんな時に素晴らしい経験になったか、逆に、苦い経験になったのかという様子が、ありありと想像できました。
通常のインタビュー調査だと自分をよく見せようとしたり、何かしらのバイアスがかかってしまうのかなと思いますが、そういった面でもかなり本音のところが聞けたんじゃないかなと感じています。
土屋:本当に仲の良い友達にしか話さないような、心を動かすエピソードが、回答のなかにあるんですよね。今回の調査では、社会的立場を抜きにしたその人の本当の、心を許した人にしか話さないような言葉がたくさんあって、回答してくれた方と一緒に居酒屋で語れるねと、みんなで言ってましたね(笑)
人は本音に共感すると思っており、その上で、今まで共感を促すような調査データが限られていると思っていたのですが、今回の調査結果は、回答者のありのままの人生そのものでした。
作田:他の定量調査だと、膨大なリサーチテーマを設定するということもないと思いますが、ちゃんと設計したからこそ、ただ聞いただけでは出てこないような本音が見えてきたのかなと思っています。
調査を始める前は、正直こんなに量の多い質問を真面目に答えてくれる人がいるんだろうかと思っていたのですが、想像以上の長文で回答してくださる方や、新たな気づきを得られるエピソードもありました。
デコムさんからの中間報告の後、部内向けに短い時間で調査の結果を共有したのですが、非常に多くの反響をいただき、皆さん「何これ!」という感じで興味を持っていただけました。
インサイトを言語化し、人の共感を呼ぶような言葉で表現。高いワーディング技術を感じる分析やレポーティングだった
作田:最終的に調査結果をまとめていただく中で、ワーディングもとても素敵だなと思いました。分析や言語化の観点はもちろんですが、それをさらに共感を得られるような言葉で表現する技術が非常に高いと感じました。
土屋:私たち広報は言葉を扱う仕事でもありますが、デコムさんが提案してくださったワーディングは、インパクトが非常に強く、クオリティが高いと感じました。そのため、対外的に公表するプレスリリースやホワイトペーパーなどで活用させていただくことにしました。調査結果は、今では社会人教育事業だけでなく、他の部署でも使われています。本当に価値のある、投資対効果の高い調査でした。
また、皆がなんとなくモヤモヤしていたことをインサイトリサーチで言語化していただき、その後の定量調査で数値化したことにも、非常に大きな価値があると感じました。
ーーありがとうございます。報告書に関連してデコム側に質問です。ワーディングやまとめる際にこだわったポイントを教えて下さい。
倉部:調査報告書というと、なるべくフラットに解説的な言葉でおまとめする方法もあるかと思うんですが、分析的であることよりも生の声がビビットに表れているものについてはその言葉を忠実に表すようにしています。冗長だったり、伝わりにくいと思った時だけ、そのニュアンスを生かすような言葉に切り替えます。
定性調査をたくさん行っていらっしゃるクライアント様ですと、直接話を聞くことを大事にしているので、ウェブ上の調査では冷たい言葉しか返ってこないのではないかとご不安をいただくことがあるのですが、デコムのインサイト調査のデータを見ていただくと、自室で語っているような本音がそこに現れていることをすごくご理解いただけます。
ベネッセ様にも共感していただき、そこの部分をすごくビビッドに感じ取っていただけたのは本当に良かったなと思っております。
―――「学び」「リスキリング」に潜在的に求めていることを理解する、アイデア開発につながるインサイト発見を目的にデコムのインサイトリサーチをご導入頂きました。学びならではの価値や未充足な欲求、不満を定性調査から分析し紐解いていきました。得られたインサイトに定量評価(調査)を加え、レポーティングから得られた知見をどのように社内、社外に展開、活用していったかなどのお話は、後編に続きます。
※2024年12月末時点。ベネッセコーポレーションは、日本におけるUdemy社の独占的事業パートナーです。
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